$ラストテスタメント クラシック-デフォルメ演奏の探求-春の祭典、展覧会の絵

今日的には悪趣味かもしれない派手な管弦楽曲「展覧会の絵」と「春の祭典」の組合せ。いわゆる名盤と比すれば、踏み込みの浅さと、表現の外面的な面が強調されているように聴こえるであろう92年のレヴァイン指揮のものです。特徴はなんといっても普段、ピットにあるメトロポリタン・オーケストラが歌手を伴わずに主役となり演奏していること。それが、旋律を歌わすように傾いたり、演出が過多であったりする点ではオペラ的です。モダンの曲種ということでは、この組合せでは、ルネ・フレミングをともなって、ベルクの管弦楽曲を収めたものがありました。通常のシンフォニー・オーケストラではないオーケストラが演奏する例では、ゲルギエフとキーロフ歌劇場管弦楽団があります。奇しくも、ロシアの作曲家の組合せ。「展覧会の絵」はラヴェルの洗練と絶妙なオーケストレーションが施されました。ラヴェルはR.コルサコフの「スペイン奇想曲」で、ロシアの音楽。とりわけR.コルサコフの管弦楽法に影響を受けます。クーセヴィツキーの委嘱。この人もボリシェヴィキの政権を嫌って、パリを経てアメリカに移住したロシア人。マーキュリーのシリーズではクーベリックの51年盤の1枚が有名。オーケストラはシカゴ交響楽団でした。その音響的興味は初期の頃から尽くされ、ワンポイントマイクでの収録。その収録はポイントを見出すことに尽きるわけですが、技術が入らないわけではありません。リビング・プレゼンス、レコードに聴くものと、録音としての成果物には差があり、できるだけ良い音(実演的な響き)で収録しようという試みです。60年代のベルリン・イエス・キリスト教会でのカラヤンの1枚。これはマルチ収録で、ヘルマンスの耳が光る。マルチは通常、響きに埋没するところをクローズアップし、スタジオのうちに再構築するものです。問題は、その収録の手段ではなく、こうした収録方法の多くがアメリカで考案され、アメリカのオーケストラで多くが実現されたことが重要です。こうした派手な管弦楽曲は、巨匠時代の指揮者にはむしろ敬遠されました。「春の祭典」の冒頭のファゴット。そのきしむような効果。それは、この曲がかつては難曲であり、その高い域の音色は、吹きづらいことを念頭に書かれたものです。上手すぎることは逆に問題になります。マゼールとウィーン・フィルものも話題になりましたが、この曲な何であれオーケストラ自体の美しい音色にこだわる同オーケストラでも異色です。それは、アメリカという機能性のうちに育まれ、音響的な興味とそれを収録する技術という方向に発達したからでした。「展覧会の絵」でいえば、トスカニーニのいつも以上にホールの響きが収録されている53年盤や、シャイー、アバド、ムーティ、ジュリーニなど、意外にもイタリアの指揮者の演奏も多くあります。ゲルギエフの演奏が、フランスの洗練を経て、なおかつロシア人ムソルグスキーを歌劇場のオーケストラを率いて再現したものだとすると、レヴァインは、まさにオペラ的、そのメトの演目にはワーグナーもあれば、ヴェルディもプッチーニもある。メトでは、ヨーロッパの歌劇場のように、歌手が複数の劇場をまわって、幾つかの曲目を同時にこなすということは考えられません。会場も大きく、大きい声も要求される。古い録音で聴けば、管弦楽の水準は決して高くはありませんでした。 
 現在の水準にいたったことはレヴァインの功績です。自身、ピアノもよくこなすレヴァインは、ゲネプロ前にも歌手に接し、まずニュアンスについての調整をとります。限られた時間で成果をあげ、オペラのように長時間を要求されるものを取り込むためには、効率よくクレバーにことを廻していかないと運営は立ち回りません。その首席就任は30歳のとき。この「展覧会の絵」「春の祭典」のものは通常の管弦楽曲録音の第1弾でしたが、およそ20年後のものです。就任前後の録音をみれば、マーラーがあり、モーツァルトの演奏でも知られていました。のちの「イドメネオ」「皇帝ティートの慈悲」といったメトの映像は今日でも高い水準を誇るものです。広大なレパートリー。モダンでもバルトークがり、先のベルク、またヴェーベルンのようなものまである。通常はオペラの伴奏でしたが、たとえばワーグナーの楽劇の管弦楽の比重は大きく、レヴァインで聴くと楷書的で、演出も分かりやすく、幾分あっさりと聴こえるのはヨーロッパ的な伝統を引きずっていないからです。こうして、オペラ以外のところまで広がっていけば、ウィーンフィルなどのように、その内容も大きく向上することは明らか。とはいえ、遠くモンテヴェルディが創始したモノディ様式の歌う線と伴奏は、歌手を欠いても旋律線をソロのパートに移し、まるでオペラのように聴こえる内容です。そこから抜け落ちているのは、この曲が生まれた背景。ロシアの土俗的なもの、また野蛮さまでも剥ぎ取られて、確かに浅くは聴こえますが、カロリー過多な楽曲のあっさり系。一気に聴かせる異色の一枚です。

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以下、当盤の動画はありませんでした モダンの曲種を中心に

51年 新古典時代のストラヴィンスキー「レイクス・プログレス」 ライナー指揮のメト

メト 予告(ボリス・ゴドゥノフ含む)

バルトーク/弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 終楽章 シカゴ交響楽団