お互いに入場が終わり、真壁と向かい合った瞬間の空気。


あの異様なまでに殺気だった空気が、今でも忘れられない。




たくさんの声援が聞こえてきた。


自分に対する声援、真壁に対する声援。


そこに混じっていた、自分に対する罵倒。


「絶対に新日本のベルトは渡さない」という新日本ファンや真壁ファンの想いが、自分の胸をえぐる。




G1クライマックスの時に感じた自分への後押し。


今回も感じたけど、G1の時とは全く違った。


それとは別に「至宝を流失させるな」というお客さんの殺気が伝わってきた。




G1の時は、御祝儀的な声援があったのかもしれない。


病み上がりの自分に対する同情もあったのかもしれない。


今になってみて、そう感じる。




G1という“イベント”で優勝する事と、“チャンピオンベルト”を獲得する事は似て非なるモノなんだと痛感した。




この試合で一番効いた技は、真壁が繰り出したカウンターのラリアットだった。


打たれた瞬間、記憶が完全に吹っ飛び、自分が今、どこで、何をしてるのかが理解できなかった。




試合に終止符がうたれ、リング上から話をしていても、客席から伝わる殺気だった空気は変わらなかった。


安堵感はゼロ。


「俺は、大変な場所に足を踏み込んでしまったのかもしれない」


控室に帰った時、そう思った。




ただ、こうなった事は後悔していない。


これから先、きっと、もっとたくさんのプレッシャーや恐怖が待っていると思う。


でも、そんな覚悟はとっくにできている。




俺は、プロレスラーなのだから。