【DiGRA JAPAN 公開講座】同人ゲームの過去・現在・未来 | 遠藤雅伸公式blog「ゲームの神様」

【DiGRA JAPAN 公開講座】同人ゲームの過去・現在・未来

 日本デジタルゲーム学会 DiGRA JAPAN 公開講座のレポート。


 今回は「同人ゲームの潮流」というシリーズの1回目になる。

 テーマは「同人ゲームの過去・現在・未来」ということで、普段は同人ゲームに縁のない人達への導入も含め、七邊信重(東京大学大学院情報学環特任助教)、井上明人(国際大学GLOCOM研究員/助教)の2先生の講演。詳しい内容は最後にいろいろとリンクしておくので、そちらを参照のこと。


左:七邊信重氏、右:井上明人氏
左:七邊信重氏 右:井上明人氏


 このブログでは、遠藤が新しい知識として得た部分、定義付けされて納得した部分を中心に、主観的観点からまとめる。2先生は別々の観点から話されたのけど、適当にまとめて、遠藤の分かりやすい形にした。それでも十分に長文だけどね。

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◆ 同人ゲームとは何か?


 今回の講座では、大きく3つに分類されている。


・商業ゲーム
・インディーズゲーム
・同人ゲーム


 色々な言葉や切り口でこれらを分類しようとしていたが、遠藤としては「プロ」「セミプロ」「アマチュア」というイメージで捉えてみた。ただし、スポーツの世界のプロやアマチュアに例外的存在があるように、ゲームにも同じものがあるらしい。

 いわゆる「プロ同人」と言われるもので、同人本来の姿である「純粋に面白さを追及し、利益を狙うわけではない」という定義から外れる。遠藤は「本人は、自己表現や面白さを追及するのが一義だが、ユーザーの支持が十分にあるために、ゲーム制作に専念し他で収入を得なくても成り立つ」状態だろうと理解した。
 この言葉の定義だと、「ダービースタリオン」の作者である薗部博之氏のゲーム作りは、むしろ同人的に思える。一部の任天堂系ゲームにも同様のテイストを感じるのだが、これらが「商業」として認知されているは言うまでもない。


 自己表現という意味では、今回多くの同人ゲーム開発者さんたちが参加されていて、それぞれに本職があって楽しくゲームを作っている様子を聞き、趣味が昂じてこうなった、という印象を強く受けた。そんな人たちの多くは、フリーゲームという形でゲームを公開しているのだが、非常に健全に思えた。

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 遠藤としては「商業」という、一般的に認知されてた狭義のゲームがあって、そうでないものが自己申告で「趣味」「同人」「インディーズ」とラベルを貼っているのかなぁ、というのが実感。「商業」にはプライドがないんだけど、「趣味」「同人」「インディーズ」はプライドがあるとも思えた。
 何せ同人ゲームはほとんどやらない遠藤なので、その差は分かりにくく、むしろ発売された後の製品に対する責任の取り方に、商業と同人の現実差を感じたかな。


 別の切り口では、二次創作的である部分が挙げられていたが、現在の同人ヒット作には当てはまらないとのことだった。ただし二次創作と成人向けには、根強い需要があることも確からしい。

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◆ 同人ゲームの歴史


・70年代後半、アーケードゲームが世に広まった時代に、パソコンで趣味のゲームを作り始めた人たちが同人ゲームの走りになる。彼らの作品は、ショップのおまけや雑誌の付録として流通する。


・82年に行われたエニックスのコンテストで、堀井雄二や中村光一が発掘されたように、一部のクリエイターが脚光を浴び、彼らの作品が商業タイトルとして販売されるようになる。
 これと共に資金的に余裕のできた会社が、コンシューマゲーム業界へ参入するようになる。


・80年代「マイコンBASICマガジン」が、アマチュアの投稿したプログラムを掲載し、プログラマ育成の役割を果たす。これらのプログラムは高級言語であるBASICが使われていることが条件で、ソースの加工などが用意だった。


・84年に「人魚の涙」がコミケで頒布され、同人誌即売会で同人ゲームが販売される流れができた。


・90年代後半、WindowsPCの普及と共にユーザー層が拡大し、全年齢対象の一次創作が増加する。ネット販売、委託販売などのチャンネルもできる。

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 と、こんな様子なのだが、遠藤的な視点で見ると、日本におけるPCゲームの歴史と一致するように思えてならない。

 家庭用ゲームが、ファミコンによって爆発的に売れるようになった80年代、家庭用ゲーム開発者の分類に「アーケード上がり」「パソコン上がり」という2系統の言葉があった。最初の100円で魅力が伝わらないかぎりヒットの可能性がなく、短時間で満足してもらわないと売り上げが上がらないアーケードの特性。パッケージで良さそうに見えれば、買ってくれたユーザーは我慢して遊ばざるを得ないパソコンの特性。


 本質的にはハードウェアから作る専用ゲームと、汎用機の1ジャンルのソフトウェアなので、市場自体も異なったわけだ。その間を、家庭用ゲーム機が埋めてしまったので、一時的に混沌となったものの、家庭用ゲーム機がゲームの代名詞的存在になって、また本来の位置に戻ったのではないかと思った。

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◆ 代表的な作品


 お二方とも違った切り口で作品を挙げていた。しかし…遠藤は殆ど馴染みのない作品ばかりなので、今回の講演で最もためになった部分でもある。


・「ビジュアルノベル」のLeaf、「泣きゲー」「感動ゲー」のKey、この二次創作にあたる分野として


『THE QUEEN OF HEART』シリーズ
 渡辺製作所による2D対戦格闘。Leafゲームの二次創作で、簡単なコマンド入力、コンボの充実など、商業ゲームのいいとこどり。


『Eternal Fighter Zero』
 黄昏フロンティアによる2D対戦格闘。Tactics,Keyゲームの二次創作で、ギルティギアをベースにしている。


『KanonRPG』『AirRPG』
 はちみつくまさんによるRPG。RPGツクールで作られた、Key、北斗の拳などの二次創作。


『Kanoso』
 いつものところによるビジュアルノベル。Keyゲームの二次創作で、音楽は原作のCDを利用している。


『AIRRADE』
 Studio SiestAによる2Dシューティング。二次創作でリニューアルもされた。


・NScripter、吉里吉里などのソフトを利用した、一次創作ノベルとその二次創作ゲームとして


『月姫』
 TYPE-MOONによるノベルゲーム。NScripter、吉里吉里を使い、独自の世界観で一大ムーブメントとなる。


『MELTY BLOOD』
 渡辺製作所とTYPE-MOONの合作となる2D対戦格闘。同人ゲーム自体の二次創作として、アーケードや家庭用へも移植されている。


『月姫打』『月の裁』
 +PsG System Laboratoryによるタイピングとノベルゲーム。月姫と逆転裁判の二次創作。


『ひぐらしのく頃に』(意味不明だが資料では「な」が赤い。オリジナルがそうなのであろう)
 07th Expansionによるサウンドノベル。NScripterを使い、コミケ毎に新作を発表するスタイルで大ヒットし、家庭用ゲームに移植されている。


『ひぐらしデイブレイク』
 黄昏フロンティアと07th Expansionの合作となる3D対戦アクション。ひぐらしのなく頃にのシリーズ?で、PSPに移植される。


『うみねこのなく頃に』
 07th Expansionによるサウンドノベル。ひぐらしのなく頃にと同じスタイルで発表し、漫画化アニメ化も決まっている。


『花帰葬』
 HaccaWorks*によるノベルゲーム。女性をターゲットとし、家庭用、携帯アプリへの移植や漫画、音楽CDなどもある。


『アパシー』シリーズ
 七転び八転がりによるノベルゲーム。商業作品「学校であった怖い話」が、吉里吉里を使って作られている。


・18歳未満禁止ゲームとして


『ひまわり』
 ブランクノートによるSF物。


『Abyss』
 Festivalによる学園サスペンス。


『ですろり』
 機械式少女による戦闘的残酷もの。


『幻想のアヴァタール』
 べにたぬきによる和風伝奇もの。


『EDEN』
 LAST WHITEによる現代ファンタジー。


・2D対戦格闘、ノベルゲームと並ぶ人気のジャンルとして、他のプラットフォームではすたれてしまった感のあるシューティングゲームが、ここでは元気だったりする。


『東方プロジェクト』シリーズ
 上海アリス幻楽団による2D弾幕シューティング。独自の世界観が多数の二次創作を生んでいる。次に挙げる2つは代表例。


『東方萃夢想・緋想天』
 黄昏フロンティアと上海アリス幻楽団の合作による2D対戦格闘。


『東方サッカー』
 はちみつくまさんによるキャプテン翼系ゲーム。


『神威』
 SITER SKAINによる2D縦スクロールシューティング。「レイフォース」の影響を強く受けていて、商業ルートでも販売された。


『五月雨』
 RedRankによる2D戦略的近接撃込型弾幕シールドシューティング。何だか分からないが、この分類でないとダメらしい(笑)


・アーケードゲームとして移植された2D対戦格闘ゲームとして


『アカツキ電光戦記』
 SUBTLE STYLEによる通信対戦ゲーム。4人同時プレイが可能。


『Monster』
 8105graphics.による通信対戦ゲーム。2008年にアーケード化されているが、制作は一人で行ったらしい。


・企業と二次創作の関わりに問題を投げた作品として


『CYBER GRANDPRIX』
 Project YNPによるレーシング。新世紀GPXサイバーフォーミュラSINの二次創作で、版権元のサンライズの指示で販売中止されたが、その後正式許諾を得て再開された。


『涼宮ハルヒの激闘』
 souvenir circ.,による対戦格闘。角川書店の連絡を受け発売中止。


『RAGNAROK BATTLE OFFLINE』
 フランスパン(旧渡辺製作所)による横スクロールアクション。韓国グラヴィティ社が勘違いによってゲーム化を依頼した。


・いかにも同人らしい自己表現的作品として


洞窟物語
 開発室Pixelによるスクロールアクション。オーソドックススタイルながら、ゲームとしての調整がきちんとされている。


なめ消し塩
 d_of_iによるアクション?。物理演算系の面白さがうまく形になっている。


雪道
 Porn パラメータ・サンクチュアリによるローグ系ゲーム。数字のトレードオフを純粋に楽しむ。


ABA games
 長健太氏によるゲームサイト。主にシューティングゲームで50ほどのゲームが置かれ、ソースコードも配布されている。


Cursor*10
 nekogamesによるパズル。ゴーストを利用し、タイミングを計りながらゴールを目指す。


おぎわら遊技場
 荻原貴明氏によるゲーム集。ノリで毎月20個ほどのゲームが作られ、日記的なネタとして楽しめる。


ドットおち
 kuniwによるアクション。GameBrainゲームコンテストの優秀作品で、Yahoo!ゲームでも人気だが、制作時間は一日未満。

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 多くのゲームが挙げられたが、遠藤が実際にプレイした経験があったのは「Cursor*10」だけで、名前だけ知っていたのが「ひぐらしのなく頃に」という状況だった。会場の「知ってて当たり前」みたいな反応が普段の公開講座と異なっていて、同じデジタルゲームでありながら全く世界が違うというのを実感した。


 後日、同僚に列挙されたタイトルを知っているか聞いてみたのだが、ほとんど知っている人がいなかった。一部、超詳しい人がいたので「同人」という本来の意味が正しく作用している感想も持った。
 ゲームはまだまだ深いね。

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◆ 海外の状況


 アメリカでは、インディペンデントやアマチュアのための作品公開の場が整っている。例えば「IGF(Independent Games Festival)」というイベントや、「gametunnel」というサイトなどがあるが、IGFなどはアワードなどを設定して、ここ数年で規模を拡大してくると共に、内容も充実させてきている。


 代表作として次の作品が紹介された。


AudioSurf
 音楽に合わせて作られたパズル的レーシング。


Armadillo Run
 2D物理演算もの、「ピタゴラスイッチ」のような装置を作るパズル。


Crayon Physics Deluxe
 Kloonigamesによるパズル。クレヨンで描いた形が物理計算によって動き出す。これらのギミックでターゲットをゴールに到達させる。軸を書くことによって回転運動を作り出せるのが面白く、IGF2008のグランプリ作品に選ばれている。


Democracy
 民主主義をテーマにしたシミュレーション。「シムシティ」(ウィル・ライト作)のMaxisと「ポピュラス」(ピーター・モリニュー作)のLionhead Studioに在籍経歴のあるプログラマの作品。


LineRider
 2D物理演算もの、引いたラインに沿ってソリが滑るシミュレーション。作者は学生でGDCにてアワードも受賞したが、Youtubeで人の作った面を楽しめるということでブレイクした。

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 海外のインディペンデントでは、プロとしても成立する作家が多くいる。
 頒布や対価についても構造が整っているからだろうが、遠藤は個人あるいは少人数でゲーム制作を行っていることが、インディペンデントの本質なのではないかと感じた。初心者から上級者まで、ゲームに応じて相当の対価が得られるというのは自然な形だし、より作家性の高いゲームが生まれる可能性も感じる。


 対象が汎用機であるというのが、日本の文化とは馴染まないのかも知れない。わがガラパゴス日本では、ゲームと言えば一般的に家庭用あるいはアーケードを指すことが多いから。

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 今後注目すべき点は


「Facebook系のSNSゲームアプリ」
「Google Opensocial連合軍のSNSゲームアプリ」
「i-phoneのゲームアプリ」


であるとの指摘もあった。

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◆ 同人ゲームの開発とヒット


 コミュニティこそが同人ゲームの原点であり、原動力になっている。それは開発者のコミュニティとユーザーのコミュニティに分かれるが、その接点はゲームというテーマで一致しているため、ユーザーから開発者への移行が起こり、新たな開発者を生むキッカケにもなっている。
 一方、ヒット作が生まれることによって同人ゲームの商業化が進み、ユーザーから開発者への流れの中で、中間層が少なくなる傾向が見られる。これは提供されたものへの不満が減ることから、自分で作るというモチベーションが低下している。ウェブやゲーム以外のコンテンツに自己表現の場が広がっていることにもよるらしい。


 同人ゲームのヒットも、商業的なアプローチと同様の部分が見られる。
 ユーザーが欲している部分、「世界感」「対戦」「謎」などの要素を加え、ファンコミュニティを育成するようなマーケティング。わかりやすいキャッチフレーズを用いるようなプロモーション。パッチや、二次創作の許容のようなユーザーサポート。これらをちゃんとやらないと、一定以上のヒットは見込めない。


 また、委託販売店や同人即売会などの販路の充実などにより、知名度がない場合は成人向けが、知名度がある程度以上になると全年齢の方が売れる傾向もある。

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◆ 今後のあり方


 商業ゲームでは成立しない企画、商業ゲームでは商品にならない技術などを具現化するのが同人ゲームの本質であるのに変わりはない。さらなる発展のために必要なのは、フリーの開発ツール、流通を一手に引き受ける企業の誕生などであろう。


 開発者育成の観点では、「マイコンBASICマガジン」が持っていた機能を復活させることが大切なのではないか?
 同じ危機感は共有されており、ファミ通コンテスト、任天堂ゲームスクール、ゲームCAMP、スクウェアエニックスGameBrainなどが行われているが、その成果は散発的でしかない。音頭が取れる存在の出現こそが、最適なのではないだろうか。

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 商業ゲームどっぷりだった遠藤の視点からは、オープンなツールで発表が楽であるという意味から、携帯電話アプリやフラッシュゲームを作っているアマチュアの存在も無視できないと思った。身の回りでは、学生時代にそれらを作っていた学生がゲーム企業に就職し、DSやPSPの開発を経てWiiやXbox360での開発に携わっている例も少なくないので。


 今回の講演で遠藤が学んだのは、アーケードと家庭用に対して携帯電話アプリが別世界だったのと同様に、PCもアーケードや家庭用に近い部分を除く別世界があったという認識。マルチメディア化とか、ワンソースマルチユースとかで目的でもいいから、開発者が別世界を知るチャンスが増えれば、全体の活性化が起こるのではないかと思えた。

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 次回10/31(金)は、いよいよ今回のシリーズのメインイベント。「ひぐらしのなく頃に」の作者である竜騎士07氏に直接登壇していただき、今まで語られなかった「ひぐらし~」をお聞きします。今回のレポートが知らないことばかりだった人から、こんなことも知らなかったのか遠藤の無知野郎!と思う人まで、是非お越しください。詳細は追ってエントリーします。

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井上氏のブログ「Critique of Games」より該当エントリー

ゲーム作りの文化のために―独立系デベロップメントシーンの比較試論―

当日の投影資料のpdfもあります。


4Gamerの記事

DiGRA Japanが見る,研究対象としての「同人ゲーム」~「QoH」「月姫」以降のヒット作とニコ動,海外作品を通じて,ゲームコミュニティの有り様を考える

厳しい部分もあるけど、ライターの人がかなり事情通なのでは?と遠藤は思った。

IGDA Japanの報告

参加者の書き込みへのリンクあり


ABAの日誌

DigraJ公開講座「同人ゲームの過去、現在、未来」に行ってきた


へっぽこさんメモ

同人ゲームの潮流(1)「同人ゲームの過去、現在、未来」に参加してきました


@++ - あっとまーく・いんくりめんと -

9/26 同人ゲームの潮流① レポートというか感想


小松菜雑記::Miku Miku Mode!

同人ゲームの潮流?@東大に行ってきた。その1