折られ侍








「まぁ好きではじめた仕事ですから」

最近はいいスクショが取れないと口をこぼした
まず、素材の入念なチェックから始まる。

「やっぱり一番うれしいのはお客さんからの感謝の手紙ね、
この仕事やっててよかったなと」

「毎日毎日、光の角度と素材が違う
 機械では出来ない」

今日は納品日
彼は商品をUSBに入れ、ヤチホコへと向かった
基本的な作り方は決まっているが、最近のユーザーの嗜好に合わせ
多種多様なものを作らなければいけないのが辛いところ、と彼は語る。

「やっぱ身内が後ろにいるときの仕事はキツイね、愚痴ってもしかたないんだけどさ(笑)」
「でも自分が選んだ道だからね。後悔はしてないよ」
「このスクショはダメだ。ほら、すぐに透けてしまう」

彼の目にかかれば、見るだけで出来不出来が分かってしまう。
技術立国日本、ここにあり。
今、一番の問題は後継者不足であるという
仕込みに満足できないとその日の営業をやめてしまうという
30年前は何十もの黒丸加工工場が軒を連ねたこの街だが
今では職人は彼一人になってしまった
黒丸の大きさを決めるのに、5年はかかると、匠は語る

「時々ね、わざわざDまでくれる人もいるんですよ
またお願いしますって。ちょっと嬉しいですね」
「捨てキャラを作ってわざわざ隠してこられるお客さんが何人もいる。
体が続く限り続けようと思っとります」

1999年、仕事のしすぎで腱鞘炎になり、
一時は店をたたむことも考えたという

「やっぱりアレですね、
たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。
そのままでいいとか、彼女がいるからいいとか……
でもそれを乗り越える奴もたまにいますよ。
ほら、そこにいる斉藤もそう。
そういう奴が、これからの黒丸界を引っ張っていくと思うんですね」

最近では海外の変態にも注目されているという。
額に流れる汗をぬぐいながら
「本物に追いつき、追い越せですかね」
そんな夢をてらいもなく語る彼の横顔は職人のそれであった


今日も彼は、日が昇るよりも早くスクショの吟味を始めた
明日も、明後日もその姿は変わらないだろう

そう、黒丸職人の朝は早い
───――完───――




折られ侍






うちの兵団にいる人の技術力はやばいのだ。本人の希望により名前は伏せます。


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