少しずつ | ケセラセラ通信日記

少しずつ

もう8月ですか。1日、1週間、1カ月の過ぎるのが早いこと! 気持をリセットして〈仕事モード〉に入りたいが、その前に、この数日間を振り返っておこう。

7月25日(金) 夜、友人Kと天神祭を見に行く。ほぼ毎年、陸渡御の行列を見ることで、元気をもらっているのだ。あまりに暑いので、半ズボンにサンダルをつっかけて事務所を出たが、5分もしないうちに後悔した。サンダルが歩きにくいのだ。引き返していると待ち合わせに遅れそうなので、仕方なくペタペタと30分歩く。南森町でKと合流。花火は見えず、大阪天満宮で賽銭でもあげようかと行ってみたが、人ごみを整理しているために本堂前には行けず。裏口から出て、相生楼のほうへ歩いて行ったら、途中で小さなフランス家庭料理の店を発見。腹も減ってきたし、ここで涼みながら飯を食おうということになる。シャンパンとワイン、アラカルト料理いろいろ。これがうまい。聞けば、今年3月にオープンしたばかりだという。店名は忘れたが、場所は覚えている。いい気分で酔っぱらい、話し込んでいたら、10時を過ぎてしまった。少しは陸渡御を見ようと、天満宮の正面に続く道へ。華やかなギャルたちの陸渡御は終わっていたが、男たちが最後の神輿をかついで天満宮へ入っていくところは見られた。みんな、いい表情だ。しかし、熱気の中でひどく酔いが回り、私はタクシーで事務所へ戻った。思えば、昨年もKと天神橋の北詰あたりで飲んでいたのであった。

26日(土) 東京・如水会館で開かれた「土本典昭さん お別れの会」に出席。行きも帰りも、JTBの「ぷらっとこだま」を利用してみた。「こだま」だから新大阪~東京は4時間かかるが、普通車で1万円、グリーン車でも1万1500円は安いと思う。申し込んだのが2日前で、普通車に空きはなく、図らずもグリーン車で往復することになった。そのグリーン車、空席はたくさんあるのに、なぜか私の両隣と後ろの4席には人が。どうなってるんだ! と思いつつ、席を替わる勇気もなく、本を読んだり眠ったりして4時間を過ごす。しかし、隣の青年は静かで、それほど苦痛ではなかった。
午後4時過ぎ、如水会館のある神保町に到着。会は6時からなので、古本屋街でもぶらつこうと思っていたが、東京も蒸し暑く、喫茶店を探して逃げ込んだ。「さぼうる」という、なんだか由緒ありそうな店。汗を拭きながら入っていくと、年配のマスター(?)がエアコンの前の席に案内してくれた。途中から寒くなったが、持参していたジャケットを着て、ホットコーヒーを2杯飲んでねばる。
6時前、如水会館のスターホールへ。もうすでに、人がいっぱい。6時〈開場〉だと思っていたら、〈開会〉なのだった。先に着いていたKに、「何してたの?」と言われる。あとで聞いたら、400人を超す列席者だったという。
長女・亜理子さんがまとめられたスライドによる病状日記、土本監督と縁の深かった人たちのお話、立食パーティー、奥さんの基子さんが作られたメモリアル・ムービーの上映などがあり、予定を30分オーバーして午後9時に終了。亜理子さん、基子さんの気丈なたたずまいに胸を打たれた。「映画新聞」でお世話になった方も多数お見かけしたが、挨拶しそびれた方もある。それぞれの分野での大御所で、声をかけるのにも緊張するし、私のことなど覚えておられないかもしれないと思うからだ。
場所を移し、近くの中華料理店で二次会。個室に17人、椅子を接し合って円卓を囲む会食となったが、気の置けない仲間ばかりで、ようやくホッとする。山形・東京の映画祭関係者、元小川プロの人たち、新聞記者、ドキュメンタリー映画作家、映画評論家、配給・映画館関係者というところ。「大阪人は、どこでも仕切りたがる」(私のことじゃないが)などと言われながら、11時ごろまで飲んでいた。
この日、特筆すべきは、土本典昭・石坂健治著『ドキュメンタリーの海へ 記録映画作家・土本典昭との対話』(現代書館)が完成したことだ。元小川プロの映画プロデューサー・伏屋博雄氏が企画し、石坂氏たちが2年間かけて土本監督に聞き書きをし、鈴木一誌氏が渾身のブックデザインをした、A5判・376ページの〈労作〉。土本監督の仕事の〈集大成〉と言ってもいい。土本監督は、この本の完成を見ずに亡くなったのだが、隅から隅まで徹底的に校正し、「あとがき」まで書いておられるのだから、見事に完結しているという気もする。
長い一日が終わり、深夜、中野の叔母の家に泊めてもらう。

27日(日) 叔母を誘い、シネスイッチ銀座でアルベール・ラモリス監督の『赤い風船』(56年)と『白い馬』(53年)を見る。K先生から「侯孝賢の新作が来るよ。『レッド・バルーン』とかいうタイトルだったと思う」と聞かされ、それは『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』(07年)で、アルベール・ラモリスの『赤い風船』にオマージュを捧げた作品だと分かったので、見ておきたかったのだ。
両作品とも、40分ほどの好編。詩情にあふれた作品で、『赤い風船』は50年代のパリをカラーで、『白い馬』はフランス南部のデルタ地帯カマルグの風景と疾駆する馬たちをモノクロで印象深く捉えている。最後がちょっと物悲しく、それもフランス映画らしくて良かった。
ともに見た叔母は、「あらっ」とか「そこは通れないのに」などと映画を見ながら言うので困ったが、それだけ画面に集中していることでもあり、注意はしなかった。楽しんでくれただろうか。
映画は12時に終わり、有楽町周辺で食事をしようと思ったが、どの店にも行列が出来ていて断念。結局、東京駅の地下で叔母と鰻を食べ、2時発の「こだま」で帰ってきた。

28日(月) 大阪へ戻ると、前回書いた「つまらん!」を読んで、数人の方がメールをくださっていた。Y先生は「あるがまま」でいいのでは、というふうなことを言ってくださっていて、なんだか楽になる。それらのメールに返事を書いていると、午後の3時ごろ、突然の雷雨が。
雷は遠くなのだが、雨がすごい。よく、映画の〈雨降らし〉のシーンなどで、雨が縞状に見えるほど大量の水が使われていることがあるが、実際にもこういうことがあるんだと驚いた。すごい、すごいと高揚した気分になり、外へ出てしばらく雨を眺めていた。だが、夜のニュースで、神戸や金沢に大きな被害が出ていることを知り、申しわけない気持になった。

29日(火) Y先生のメールで肩の力が抜け、「まず一歩から始めよう」と、久しぶりにヨーガ教室へ行く。なんと、受講生は私だけで、指導員のMさんから個人レッスンを受ける。私の肉体の状態に合わせて指導してくださったためだと思うが、アーサナ(姿勢、ポーズ)もそれほどきつくなく、終わってみるとスッキリとした爽快感だけが残った。また、「(体が)すこやかですね」と言われ、その一言がやけに嬉しかった。
やっぱりヨーガはいい! もっと真面目に取り組もう、と思いつつ帰ってきたのであった。

30日(水) 恒例の映画観賞会。梅田ガーデンシネマで『歩いても 歩いても』(08年、是枝裕和監督)を見る。水曜日はレディースデーで、女性は1000円。なぜかこの映画館は男性も1000円で、混雑が予想された。いつもは、来たい人・来られる人だけが上映の20分前に映画館前に集合ということにしているのだが、今回はそういうわけにいかない。参加される人から事前に連絡をもらい、その分のチケットを先に買いに行った。午後6時45分からのを見るので、午後1時半ごろに行ってみた。午後2時10分からの回は、すでに立ち見。大正解である。で、ゲットした整理券は3番から6番。参加者は、Nさん、Fさん、Kさんと私。私たちが見た回も、立ち見客がいた。
『歩いても 歩いても』は、文句のつけようがない映画だった。特にこれという出来事は起こらないのに、あとからジワジワ効いてくる。あまりに見事なので、原作があるのかと思ったら、原作・脚本・編集・監督を是枝裕和がこなしている。数年前に母親を亡くしたことが、この映画を作るきっかけになったと語っているが、誰もが身につまされる部分がある。キャッチコピーが《人生は、いつもちょっとだけ間にあわない》で、これは私が両親を亡くしたときに「何もしてあげられなかった」という感慨を抱いたことに重なってくる。
演技、演出、脚本、美術、録音、照明などなど、いずれについても長く言及したいほど素晴らしい。個人的には、夏川結衣に惚れました。