暑い日がつづきますね。太陽が燦々と輝けば、ああ、太陽光発電が今日も発電しているなと感じてしまいます。もう職業病ですね。さて今回は、地域活性化につながる可能性のある、風変わりな太陽光の取り組み「ソーラーシェアリング」について紹介します。
◆今回のトピックス
・「ソーラーシェアリング」って何?
・耕作放棄地を活かして地域活性化を
・サツマイモの栽培と地域への貢献
小田原のソーラーシェアリングを運営する小山田大和さん(左)と川久保和美さん
◆農業×エネルギー「ソーラーシェアリング」って何?
今回の舞台は、神奈川県小田原市。農業をしながら発電も行う「ソーラーシェアリング」の取り組みを取り上げます。まずは「ソーラーシェアリング」とは何かについて、簡単に説明させてもらいます。 普通、地面の上に置く太陽光発電では、多くの発電電力量を得ることができますが、下の地面を活用できません。農地だった所に置いているケースでは、農地としては使えなくなってしまうわけです。
そこで地面を有効活用したいという発想から誕生したのがソーラーシェアリングです。農地の上に隙間を開けて比較的小さなパネルを並べることで、農作物の収穫はもちろん、固定価格買取制度(FIT)を利用した売電収入も同時に得られるようになります。太陽の光を農作物のためだけではなく発電にもシェアするということから、「ソーラーシェアリング」と名付けられています。
一般的な太陽光発電事業の主な目的は、これまで売電収入がメインでした。しかしソーラーシェアリングは、どちらかというと農業に主軸があります。農業は天候不良や異常気象などが増えれば、収穫源や収入源に直結します。また、人口減少や農業従事者の高齢化により、耕作放棄地も増えています。
ソーラーシェアリング事業を進める人たちは、こうした手を付けられていない農地を活かして発電事業を兼ねることで、農業者の収入の安定化や、耕作放棄地の再活用につなげたいと考えているのです。 ソーラーシェアリングについて詳しく知りたい方は、発案者の長島彬さんにインタビューをしていますので、こちらを参照してください。
*これからの農業は発電も! 里山とエネルギーの新しい関係をつくる「ソーラーシェアリング」(グリーンズ)
◆耕作放棄地を活かして地域活性化を
今回紹介するソーラーシェアリングは、小田原市の東側にある曽我地区の休耕地に設置されています。曽我地区は梅とみかんで有名ですが、現在は農業者の高齢化とともに、休耕地が増えています。梅とみかん農家の川久保和美さんも、休耕地の増加に頭を悩ませるひとりでした。そこで、地域活性化をめざすエネ経会議事務局長の小山田大和さんは、川久保さんと協力して市民グループ「かなごてファーム(※)」を結成、休耕地を活かす事業を始めます。
まずは小山田さんを始め、農家ではない普通の市民が休耕地でみかんを栽培、みかんジュースに加工して小田原で販売する仕組みをつくりました。2014年2月から始まったこの取り組みは、「おひるね」していた休耕地を活用することから「おひるねみかんジュース」というブランドで販売されています。
おひるねみかんジュース
次に手掛けたのが、同じく休耕地を活かしたソーラーシェアリングです。設置した農地は、かつてはお米や梅がつくられていた時期もありましたが、水はけが悪く農地としての価値があまり高くないため、耕作放棄地となっていました。その土地を、発電事業をきっかけに農地として再生させようとしています。
川久保さんと小山田さんは、ソーラーシェアリングの設置経験の多い株式会社パスポートと提携して、3者で「合同会社小田原かなごてファーム」を設立します。工事や発電関連はパスポートが請負い、農地で育てるサツマイモの栽培は川久保さんが責任をもつことも決められました。
ソーラーシェアリングについて、「小山田さんから話を聞くまで知らなかった」という川久保さんは、始めた理由について次のように語りました。「自分としては耕作放棄地が増えていく中でどうしたらいいか困っていたので、これがひとつの解決策になればいいなと。ぼく自身は、耕作にしても発電にしてもこれから20年続けるのは厳しいと思うんだけど、小山田くんが責任を持ってやってくれると言うので、じゃあやってみようとなったんです」。
◆サツマイモ栽培と地域への貢献
2016年10月に完成した発電設備は、最大出力15・1キロワットです。並べられた56枚のパネルの隙間からは、地面に設置前の70%以上の光が届いています。およそ400万円がかかった建設費用は、およそ10年で償却、その後の収益は地域の課題解決のために活用される予定になっています。
費用の内訳は、設備で330万円、電柱を建てたり送電線を引いてくるのに70万円がかかりました。 設備費用の一部は、パルシステムの助成金と県の補助金が使われています。しかし、単にもらうだけの補助金ではなく、事業が計画通りうまく行けば補助されたお金を返すという「収益還元型補助金」という種類のものです。このような補助金制度は、新しいことにチャレンジする事業者はもちろん、自治体の側にとっても出しっぱなしにならないというメリットが出てくるのです。
農地で栽培するサツマイモは、2017年の6月に苗を植えました。周囲には水はけを良くするために溝を掘り、畝も高くしています。作付け時には、相模女子大学と東京農工大学の学生さん8名にも参加してもらいました。学生さんたちは、初めて見るソーラーシェアリングを不思議がっていたとのこと。
作物をサツマイモにした理由は、ソーラーシェアリングでも収穫量が落ちないという実績データがあったためです。県の農業委員会から許可が降りなければソーラーシェアリングの実施は難しいのですが、まだまだ始まったばかりの仕組みなのでデータが少なく、栽培できる品種が限られてしまうのが課題のひとつと言えるかもしれません。
植えられたサツマイモの苗
このソーラーシェアリングは、神奈川県内では6例目、小田原市内では3例目となります。こうした実験的なプロジェクトで、十分な収穫ができることが証明されれば、他の作物でチャレンジしたり、他の場所でもやりたいという人が増えるなど、いろいろな可能性が広がります。そのため小山田さんたちも、何とか1年目で成功させたいと意気込んでいます。なお、ここで収穫されたサツマイモは、地域の和菓子屋さんで使われる予定になっています。
収益が不安定な農家に、安定した収益をもたらしながら農作物の収穫もできるという一挙両得のソーラーシェアリングですが、川久保さんはその仕組みに大きな課題も感じています。農業者が高齢化する中で、20年間売電したり耕作する責任が持てないため、簡単には手がけることができないのです。そのため、小山田さんは、高齢の農家の方たちが参加しやすくなる新しい仕組みをどのようにつくるかを検討しています。
「まず売電ありき」ではなく、地域の活性化や耕作放棄の解消、持続可能な農業につながる可能性のあるソーラーシェアリングという新しい仕組みにぜひ注目してもらえればと思います!
※「かなごて」のネーミングは、「神奈川口御殿場線沿線」を活性化しようとのことから、略称としてつけられた。
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