ヒートショックが起きる主な理由は、熱中症対策の話でも触れたように日本の家の断熱性能の低さにあるのですが、断熱性能の決め手が熱の出入り口となる窓であることは意外と知られていません。
窓専門メーカーのYKK APは、今年の6月に窓の違いによる快適性の違いを実感できる「体感ショールーム」をに品川にオープンしました。メディアもなかなか取材できないそのショールームを訪れると、想像した以上に衝撃的でした!
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YKK APの横浜ショールーム。窓に手を当てて断熱の違いを体感できるコーナー
◆今回のトピックス
・エアコンで室内を暖めても寒い?
・アルミと樹脂とでこんなに違う!
・欧州基準の最強断熱ルーム
・日本人の75%が暮らす部屋は?
◆エアコンで暖めても寒い?
体感ショールームのさまざまな施設の中で最大の目玉となっているのは、冬の断熱性の違いを体感できる5つの部屋です。ここでは真冬の外気温を想定して、−5℃〜0℃に冷やされた巨大冷凍庫の中に、窓と断熱材の異なるAからEまで5つの部屋が設置されています。さらに、それぞれの部屋の中は2つに別れ、エアコンで20℃以上に暖めた部屋と、エアコンのない部屋とがあります。
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A〜Eまで断熱仕様を分けた5つの部屋の平面図
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部屋の平面図。エアコンのある部屋とない部屋の2つに分かれている。
Aは20年以上前の一般的な断熱仕様(壁・床・窓)の部屋で、B、C、Dと進むに連れて断熱性能が上がっていきます。そして最後のEは欧州レベルの高断熱仕様の部屋となっています。このレベルの部屋は日本でもまだほとんどありませんが、レポートで何度かお伝えしている「低燃費住宅」の部屋はこのレベルに当たります。
まず最初に、Bの部屋(2番目に寒い)に入室します。ここは、「平成25年基準」という、日本では比較的新しい基準の断熱仕様です。比較的新しい家はこのレベルとのこと。窓はペアガラスで、サッシ(窓枠)はお馴染みのアルミでできています。
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最初に入ったBの部屋(エアコン有り)。サイズはどの部屋も同じ
室温そのものはエアコンがかかっているので20℃〜23℃程度になっているため寒くはありません。しかし、足元からは冷たい空気があがってきます。部屋に設けられたサーモグラフィの温度を見ると、やはる床の温度が16.5℃と、低くなっています。また、熱の出入り口である窓際は、7℃から13℃程度と特に低くなっています。
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Bの部屋のサーモグラフィ
窓のガラス面はかなり結露しています。結露は皆さんご存知のように、水分を含んだ室内の暖かい空気が、窓際の冷たい空気に触れて、水滴になることで起こります。窓が冷たければ冷たいほど、結露は起こりやすくなるんですね。
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Bの部屋の窓
つまり、この部屋は冷たい外気から実を守るためにエアコンで暖めているのですが、足元の冷気や窓の冷たさ、結露などいろいろ課題が出てきてしまっています。エアコンは頑張って暖かい空気を送り続けなければ室温が維持できないので、消費電力も比較的高めになります。
では、エアコンのない部屋ではどうでしょうか?エアコンだけが頼みの綱だったので、こちらの部屋の中はヒヤッとします。室温は13.5℃。スリッパを脱ぐと足元は10℃程度なので冷たく感じました。ここには長くはいられません。
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ヒヤッとするBの部屋(エアコンなし)
◆アルミと樹脂とでこんなに違う
そして、Bの部屋でもうひとつ気になったのが、前回のリポートのエコハウスづくりでも登場したアルミサッシです。日本で一般的なアルミサッシでしが、先進国ではほとんど使われていません。
欧米に限らず、韓国などアジアの国々でも窓のサッシは、熱を伝えにくい樹脂製(プラスチックの一種)が主流になってきているのです。日本ではペアガラスでさえ一般的ではありませんが、このBの部屋を経験して、たとえペアにした所で快適な暮らしとは言えないのかなと感じました。やはりサッシは大切ですね。
次に入ったのは、YKK APが推奨する断熱レベルというDの部屋です。ここの窓は、ガラスはBと同じペアガラスですが、サッシは樹脂になっています。エアコンはかけているのですが、もともとの部屋の温度が暖かいので、天井と足元の温度が21℃〜23℃とあまり変わりません。
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Dの部屋の窓
特に足元が21℃を越えているので快適です。さすがに窓の周辺は多少温度が下がりますが、それでも13℃〜18℃程度。結露はよく見ると多少しているのですが、Bの部屋と比べるとほとんどないといってもいいレベルでした。エアコンだけに頼っていないことがわかります。
エアコンのない部屋に入ると、やはり室温は下がります。それでも17℃程度(足元は15℃程度)を維持していて、多少寒さは感じるものの、しばらく立ち話をするくらいなら問題ありませんでした。
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Dの部屋の温度
◆欧州基準の最強断熱ルーム
驚かされたのは、欧州レベルの断熱仕様がほどこされたEの部屋(パッシブハウス)です。こちらの窓ももちろん樹脂製、ガラスはトリプル(3枚)仕様になっています。さらに、壁の断熱材も分厚くなっています。
まずエアコンをかけている部屋ですが、室温は22度から24度程度、足元はまったく寒くありません。窓下の一番冷たいところでも18℃程度。結露はまったくしていませんでした。エアコンの能力に頼らないので、少しのエネルギーで暖かくなるようです。実際、各部屋のエアコンの消費電力は大幅に差が出ていました。
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Eの部屋の窓
さらに驚いたのは、エアコンのない部屋です。さすがに寒いだろうと思ったら、十分過ごせるだけの暖かさ(20℃)が保たれていました。足元も20℃!というのは本当にびっくりです。寒さも窓の結露もまったくありません。窓だけのチカラではないとはいえ、エアコン無しで、外がマイナスの気温でも20度を保てるのはすごいですね。
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Eの部屋の温度
この最強断熱のEの部屋で暮らすのと、最初に入ったBの部屋で暮らすのとでは、何年かするうちに健康状態に大きな差が出てくるようにも思います。ヒートショックは、暖かい部屋から冷たい部屋に行ったときに血圧がいっきに変化して起こりやすくなります。
Bの部屋ではエアコンありの部屋から無しの部屋にいどうしたときに、実際そのような変化が起きています。一方、DやEの部屋ではそういう変化がほとんどないので、室内を移動するときに身体への負担がかからないのです。その違いを実感することができました。
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断熱の弱いAと高断熱仕様のDの2つの部屋を比較したサーモグラフィ
なお2020年には、日本でも新築住宅が建設される際には、断熱基準が義務付けされることになりました。しかし適用される基準は、ぼくが最初に入ったBの部屋のレベルです。もちろん、現在の日本のほとんどの既存住宅の断熱レベルはもっと低いので、やらないよりは良いのですが、国際的な流れからするとまだまだ低いと言わざるをえません。
できることなら、国の基準を待たずに率先して高断熱の窓や家を選んだ方が、省エネはもちろん、健康な生活が送れると思います。とはいえ、家を買う、とかリフォームするのは簡単じゃないですよね?どのような方法があるのかについては、今後のリポートで紹介していきます。
◆日本人の75%が暮らす部屋は?
さて、ここまで昭和55年の断熱基準であるAの部屋については触れていませんでした。Aの部屋の窓は、アルミサッシのシングルガラス(1枚)となっています。実は日本の住宅の75%程度がまだこのAのレベルなのです。もちろんぼく自身も賃貸暮らしなので、このような部屋に暮らしてきました。
恐る恐る部屋に入ると…、室温はエアコンをガンガンかけているおかげでそれほど寒くはありません。でも室温21.5℃なのに、床が15℃と冷え込みます。窓のあたりは5度から13℃で、ガラスには大量の結露でびちょびちょに…。そして、エアコンのかからない部屋に入ると、ほとんど冷蔵庫か、という感じに。床が7℃で室温は10℃程度、窓のあたりは0.3℃から2℃。ちょっと入ってもういいやとたまらず逃げ出しました!
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熱い照明を当てて、窓ごとの夏の暑さへの対応力を比較する、「遮熱比較コーナー」
いつもこういう部屋に暮らしていると当たり前になってしまうのですが、他の部屋と比較するとたまらない感じですね。日本の住宅の現状を憂慮しつつ、このような施設がきっかけでこれから性能があがっていく可能性を感じる体験になりました。
ちなみにこのショールームには、他にも遮熱性能(熱)、通風性(風)、遮音性(音)などの違いがわかるさまざまな仕掛けがあります。「知る」だけでなく実体験を通して学ぶことができるようになっているわけです。
品川の「体感ショールーム」は、工務店など建築のプロを対象とした施設なので一般公開されているわけではありません。しかし、一般の人でもこれに近い体感ができる体感機は、YKK APの新宿、名古屋など全国10ヶ所のショールームにあるので、違いを体感してみることをお薦めします。
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※2011年1年間に温度の急激な変化で亡くなった「ヒートショック」による死亡者年間約17000人に対して、交通事故死亡者数は4611人で、およそ3.7倍。(東京都健康長寿医療センター研究所・2011年1年間の数値)。
◆関連リンク
・YKK APのショールーム紹介ページ
◆高橋真樹のエネルギーイベント情報
あのHMVにデビューです(笑)!ぜひ!
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