第59回:売電価格が下がってもエネルギー事業はできる/サステナジー株式会社・山口勝洋さん(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

全国ご当地エネルギーリポートです。前回に引き続き、今回もサステナジー社長の山口勝洋さんにお話を伺います。前回は各地で取り組んでいるエネルギー事業の話が中心になりましたが、今回はエネルギー事業のこだわりや、固定価格買取制度(FIT)の価格が下がり(太陽光に関して)、熱が冷めつつあるかのように伝えられる自然エネルギー事業のこれからについてお聞きしています。

前回の記事はコチラ
バイオマスの新しいモデルをつくる/山口勝洋さん(前編)

今回のトピックス
・足りないのはエネルギー事業の主体
・売電価格が下がってもエネルギー事業は可能
・電力を流通させる会社ばかり増えても仕方ない


紫波町のラ・フランス温泉館への省エネ・再エネ設備を導入する際の契約調印のとき(右から3番目が山口勝洋さん、盛岡信金理事長(右端)や、紫波町の藤原孝前町長(左から2番目)も出席した/2010年10月)

◆エネルギー事業の主体が足りない

Q:山口さんがエネルギー事業を手がける際のこだわりは何でしょうか?

山口:私は日本とアメリカで経営・技術・環境のコンサルタントをしてきました。そのあと長野県飯田市や岡山県の省エネ事業などを手がけるようになるのですが、今から10年ほど前の日本でも、省エネ機器を売る会社とか、設備工事をする人たちはそれなりにいたのです。ただ、自然エネルギーや省エネに取り組む事業主体が圧倒的に足りず、ましてやそれを地域レベルで行うという事業モデルの概念もありませんでした。エネルギー事業の主体の立場から日本に広げていこうという動きがなければ、いくら設備を売る会社が増えても広がっていきません。でも、中小企業では資金調達が難しく、「自分が主体になってまでリスクを冒せない」という所がほとんどでした。だったらビジネススクール時代に資金調達や起業を学んだ自分が、主体になってみようと考えたのです。

独立して実感したことですが、エネルギー事業はやはり地域が主体になるのが大切です。飯田市もそうですが、地域の人たちが、地域のためにという思いでやるからこそ広がって行きます。でもそのときに欠かせないのは、的確なサポートをしたり、使う側として適正なシステムの企画・設計や導入を担当する専門家です。この分野では一般的には、工事会社であれ機器メーカーであれ、「売って終わり」、「導入して終わり」のことが多いのですが、地域エネルギー事業を根付かせるためにはそれでは足りません。私たちは、15年の事業なら15年ちゃんと一緒に歩いていく。機器の運用、メンテナンス、そして成果を出し続けることに責任を持つことにしています。震災後の復興支援の現場ではよく「魚を与えるのではなく、釣りの仕方を教えるべき」と聞きましたが、私たちは「一緒に行って一緒に釣る」やり方をしています。地域の中で住んで一緒に動かして行くと、ある時に振り返ってその道のりで得られた地域の仲間との思い出や苦労が、貴重な共有財産になっていることがわかるのです。


紫波町にあるラ・フランス温泉館の全景(提供:紫波グリーンエネルギー)

Q:非常にユニークな取り組みですね。ただ、ビジネスとして考えた場合、「それでは効率が悪い」という人もいるのではないでしょうか?

山口:確かに手間はかかるので、効率を追及せざるをえない大企業は同じ業態には入ってきません。しかし地域レベルでは、1件ごとの案件が小さくとも、20とか30とかまとめれば、それなりの中規模になります。様々な省エネと再エネを組み合わせた合わせ技で、ビジネスとして十分に付加価値が出せますし、人件費もまかなえます。そして、丁寧に地域とつき合って行くことで、信頼してもらえるようになれば、何かあったときに声をかけていただける存在になっていくのです。「地域エネルギー」と一言で言っても、さまざまな種類や状況に応じた機会があります。そのために、普段からできるだけ幅広い引き出しを備えておくことで、それぞれの事案に対応できる有効な提案ができるようになります。

◆売電価格が下がってもエネルギー事業はできる

Q:2012年にはじまった固定価格買取制度(FIT)で高く買ってもらえることになったため、太陽光発電が一気に増えました。ところが売電価格は年々下がり続け、もう「太陽光は儲からない」とか、場合によっては「自然エネルギーはもう広がらない」などと言う人もいます。(※)それでも大規模な設備を作ることのできる大企業は大丈夫なのでしょうが、中小の事業者が継続して手がけることは可能なのでしょうか?
※非住宅用太陽光発電の買い取り価格は、1kWあたりで2012年度は40円だったが、2015年度は26円となる。いずれも税抜き価格。

山口:この数年に広まったような、誰かに発注してお手軽に稼げるというスタイルではやっていけなくなるでしょうが、それはある意味で良いことでもあります。中小の規模でも、損をしない範囲でやるという姿勢なら、まだまだ太陽光事業をやっていく道はあるのです。2004年頃、私たちが飯田市で太陽光事業を手がけた時は、FITもなかったし、今よりも条件が良かったとは言えません。しかしそれが現在まで継続していて、地域エネルギー事業のモデルと呼ばれるようになりました。

私たちが紫波町と協力して、市民出資で設置した太陽光事業はその一例です。設置工事を町外の大手企業に依頼すれば楽をできるのですが、その分中間マージンも取られてしまいます。紫波グリーンエネルギーは、地元の複数の工務店に直にお願いしたため、期待通りの費用でできました。その代わり、自分たちで設計、部材の発注、そして施行方法といった細かいところまで手がけて、きちんと伝える必要がありました。このように工夫を凝らすことで、まだまだやっていくことは可能です。


紫波グリーンエネルギーが屋根に太陽光設備を設置した紫波中央駅の駅舎(提供:紫波グリーンエネルギー)

◆流通させる会社ばかり増えても仕方ない

Q:これからは電力自由化も始まりますが、今後のエネルギー事業をどのように展開して行くつもりでしょうか?

山口:FITが始まって3年で、自然エネルギーが広まる大きな流れというのはだいぶできてきたのではないでしょうか?でも残念なことに制度設計は大雑把で緻密とは言えず、弊害も起きています。大企業を中心に、地方の山林や遊休地などの資源を奪うような「植民地型」が多かったり、熱を捨てる大型の木質バイオマス発電ばかりが増えたりというのもその一例です。そもそも、電気や熱、輸送燃料や省エネと創というエネエネルギー全体で考えなければならないところを、電力を作って売る話ばかりになっているので、全体バランスがとても偏った形になっています。これは経済面の制度設計の話だけではありません。一般の人も含めて、社会全体にエネルギーの科学原理や基礎知識が欠如しているという日本の問題も透けて見えます。これについては、メディアや教育のあり方を見直すということも大事なのでしょう。


紫波グリーンエネルギーのエネルギーステーションにあるバイオマスボイラー(左)

電力自由化についてはこれからどうなるのか、今はまだ見えていません。自由化を見越して電力供給を行うPPS(新電力)の登録が増えていますが、私たちは新電力登録はしていません。地域から見れば、電気を流通させる以前に、自然エネルギーで発電する、作る部分が足りないという状態はずっと続いているので、サステナジーはそういった「物理的に作ったり減らしたりする所」を軸にやっていくつもりです。私たちとしては、地域自立に向けてやりたいという心意気のある方々と一緒にやっていけるのが理想です。現にそういうニーズも出てきつつあります。

自然エネルギー事業は新しい分野なので、課題にぶつかることもしばしばあり、思ったように進められないことも少なくありません。それでもやり続けてさえいれば、そこで学んだ教訓を活かすチャンスは必ずめぐってきます。まだまだ日本のエネルギーを巡る状況は、ヨーロッパと比べても大幅に遅れている部分が多いのが事実です。私たちは、今後も日本で実現できる「解」を積極的につくり続け、事業の幅を広げていきたいと思っています。
◆関連リンク
・サステナジー株式会社
・紫波グリーンエネルギー株式会社

山口勝洋さんインタビュー前編はコチラ

高橋真樹の本
世界初の自然エネルギーによる震災支援プロジェクトを伝える$全国ご当地エネルギーリポート!
 

    『自然エネルギー革命をはじめよう
           ~地域でつくるみんなの電力』