第4回:長野・おひさま進歩エネルギー 〜地域ぐるみで「おひさまの町」づくり〜(太陽光) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

❒地域エネルギー事業のパイオニア

 全国の自然エネルギーの取り組みを伝える「エネ経会議特派員・高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。第4回は、これまで紹介した小田原のほうとくエネルギーや東京の多摩電力がお手本にしている、地域ぐるみのエネルギー事業のパイオニアである、おひさま進歩エネルギーです。

$全国ご当地電力リポート!
おひさま進歩エネルギーのロゴマーク

 長野県南部の飯田市を拠点に活動するおひさま進歩エネルギーは、飯田市が環境省の「平成16年度 環境と経済の好循環のまちモデル事業(通称:まほろば事業)」に採択されたことをきっかけに、市民が中心となって地域に自然エネルギー導入を進める組織として2004年に設立されました。母体となったのは、地域のエネルギー自立に向けて取り組むNPO法人南信州おひさま進歩です。

$全国ご当地電力リポート!
太陽光パネルを設置した飯田市の鼎みつば保育園
 
 このプロジェクトは、2重の意味で画期的でした。ひとつは、市民や行政、事業者など地域が一体になって自然エネルギー活用に取り組んでいく事業として全国で初めてだったことです。そしてもうひとつは、太陽光発電事業として全国ではじめて市民出資の仕組みを適用したものになったということです。

 おひさま進歩エネルギーは、自治体や金融機関、事業者など、地域のさまざまなステークホルダー(利害関係者)と調整して、地域全体で自然エネルギー設備を増やしていく仕組みをつくりました。日本ではまだ誰もやったことのなかったこうした企画の立ち上げには、ISEP(環境エネルギー政策研究所)が全面的にサポートしました。

 最初のファンドとしては、太陽光発電への屋根貸しと、市の施設のミニ省エネ事業を対象として、必要資金(環境省の補助金は別として)2億150万円すべてを市民からの出資で調達しました。その後も、毎年のように公共施設・民間施設に太陽光発電を導入するプロジェクトを実施しています。
 中でも2009年から導入している、個人住宅が初期投資ゼロで太陽光パネルを導入できる「おひさま0円システム」は好評で、こうした取り組みを通じて地域に着実に太陽光発電を普及しています。

$全国ご当地電力リポート!
おひさま0円システムでパネルを設置した一般家庭

 このような先進的な活動が認められて、おひさま進歩エネルギーは地球温暖化の防止に顕著な功績のあった個人や団体を称えて表彰される「平成24年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」を授賞しました。
  
❒特徴は、地域との協力体制

 おひさま進歩エネルギーの特徴は、日照条件の優れた南信州のメリットを活かした地域密着型の「創エネ」「省エネ」事業ということです。おひさま進歩エネルギーと飯田市、ISEPを中心としたこの官民一体の地域エネルギー事業は、現在全国で行われている地域エネルギー事業のモデルとなっています。

 この事業のユニークさは、おひさま進歩エネルギーを軸に、自治体と金融機関、地域の業者や公共施設などと連携していくことで、エネルギーというテーマを越えて、持続可能な町づくりが行われていったことにあります。

 例えば環境意識が高いことで知られる飯田市は、当時としては異例となる長期にわたる公共施設の屋根貸しを無償で許可するなど、積極的なサポート体制を築きました。
 さらに市は、2013年4月から「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」を施行しました。これは、単に形だけ自然エネルギー設備を増やせば良いという姿勢ではなく、地域の自然エネルギー利用について環境を守り、地域社会にメリットがもたらされることを第一義に掲げる画期的な条例となりました。

 最近では、都市部の大企業が地方にメガソーラーを建設する例が目立ちます。それだけでは、利益は都市部に持って行かれて、地域には何も残らないという都会と地方との関係性は変わらないままです。飯田市は、そのような場当たり的な土地やエネルギーの利用法とは明確に異なる姿勢を示しました。「地域環境権」をキーワードにしたこの条例に見られる市の体制は、地域に自然エネルギーを普及する原動力となっていくことでしょう。

 また、おひさまエネルギーファンド株式会社を通じて、全国の市民から市民出資を集めるという手法も、多くの人が関心を向け、エネルギー事業に参加するきっかけをつくりました。「お金の見える化」をテーマにした、出資した人を対象とした設備見学ツアーなども人気を集めています。

$全国ご当地電力リポート!
発電していることがわかるようになっているボード。パネルを設置した明星保育園にて。

❒南信州全体に広がる発電設備

 おひさま進歩エネルギーのプロジェクトで、2004年から2013年9月までに設置した南信州地域での太陽光発電設備の全設置ヶ所は268ヶ所。設置容量は合計で約2600kwで、場所は公共施設や企業、戸建て住宅など様々です。さらに省エネ部門では、公共施設や民間企業へのアドバイスなどを積極的に実施しています。
 
 2012年度からは、再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度を受けて、太陽光発電設備をさらに増すため、「地域メガさんぽ おひさま発電所プロジェクト」を実施しました。今後もそうした大規模な取り組みを検討しつつ、地域のエネルギー自立をめざして活動する予定となっています。

 2013年度のおひさまファンドも、まもなく募集を開始する予定です。詳しくは、おひさま進歩エネルギーのWEBサイトをご覧ください。

❒キーパーソンからのメッセージ

$全国ご当地電力リポート!
おひさま進歩エネルギーの原亮弘さん

 おひさま進歩エネルギーを立ちあげ、関係各所との調整に奔走してきた原亮弘社長からは、このようなメッセージを頂きました。

 私たちは、「省エネ」と「創エネ」の2本柱を軸にして、循環型社会をめざしてやってきました。今後はそこに「蓄エネ」も加える予定です。地方には、まだ使われていない資源がたくさんあります。そうした地域のエネルギーを地域のために活用していくことが、雇用を生み、安全な暮らしをつくることにもつながります。

 昨年7月、再生可能エネルギーの拡大を目指してFIT(固定価格買取制度)がスタートしました。その効果は、特に太陽光発電において予想を超える数字になっているようです。そのことは評価できますが、果たして得られる価値が地域に還元される取り組みになっているでしょうか。長野県飯田市では、今年4月に条例を制定し、「地域環境権」としました。そこでは再生可能エネルギーで得られる利益は、第一義に地域住民にあるとしています。これからの再生可能エネルギー利活用の姿がそこにあるように思います。
 
❒感想として

 日本で自然エネルギーへの関心が薄かった頃から本格的に動き出した、おひさま進歩エネルギーと飯田市を中心とした地域ぐるみの取り組み。その10年におよぶ活動から学べることは、ここで紹介しきれないほどたくさんありますが、素晴らしいなと思うポイントを1点だけ紹介します。

 それはこの取り組みが、単に発電設備をつくっているというだけでなく、地域の様々な人が関わりあい、地元でお金を回し、エネルギーを自給し、循環させるという仕組みを、時間をかけて築いてきた点にあります。
 エネルギーと言えば、つい目先の石油価格との比較とか、原発が本当に安いかどうかという価格面の話になってしまいがちです。もちろんそれはそれで重要なことですが、もっと大事なことは、外から燃料を買ってくるのではなく、地域内でエネルギーを生み出し、それを地域にメリットのある形にしようという配慮を重ねること。おひさま進歩を中心とする取り組みでは、それが地域の力を高めることにつながっていると実感することができるのです。

 おひさま進歩エネルギー代表の原亮弘さんは、「いずれ飯田市を含む南信州地域(人口17万人)の電力を、100%自然エネルギーにしたい」と言いますが、彼らの活動を見ていると、それが近い将来に可能なのではないかという気もしてきます。

 地域の力を高めること、言い換えれば外への依存度を低くすることの重要性は、エネルギー問題に限ったことではありません。エネルギーへの取り組みをきっかけに、他のさまざまな問題に対処する力が、この地域には生まれているように思うのです。
 
 これからも、挑戦を続ける日本のトップランナー、おひさま進歩エネルギーと飯田市の活動に注目したいと思います。今回はこんなところで!次回は10月3日に更新する予定です!

※おひさま進歩エネルギーの活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の最新情報などはこちらのリンクからどうぞ。

おひさま進歩エネルギー株式会社/
NPO法人南信州おひさま進歩
ひさまエネルギーファンド株式会社
おひさま進歩スタッフブログ

※おひさま進歩エネルギーの活動をまとめた本が出版されています。
『みんなの力で自然エネルギーを~市民出資によるおひさま革命~』
市民出資やおひさまゼロ円システムなどについて詳しく書かれています。

$全国ご当地電力リポート!

また、ぼくの本でも原亮弘さんへのインタビューを通して、事業の成り立ちや他のプロジェクトへの波及効果などについて取り上げています。
自然エネルギー革命をはじめよう~地域でつくるみんなの電力~』合わせてご覧ください。