男は慌しくワイシャツに袖を通した。
そして、一瞬、困ったような顔をしてネクタイを掴んだ。
襟にかけ、まだ何か迷っているようだった。
そして、ちょっと頭を垂れた。
「これ、今朝クリーニングしたばかりなんだ・・・」
「・・・」
「ここ・・・ボタンが取れちゃってる・・・」
「あら、ほんと・・・」
「こんなこと、君に頼むのは申し訳ないんだけど・・・」
「あ・・・針と糸あるかなぁ・・・」
私は引き出しを開け、ゴソゴソと探した。
「あった・・・でも糸が紺・・・白じゃないと・・・」
「なんでもいいや!ここ、つけてくれるかなぁ」
男は安堵の笑みを浮かべると、そっとその腕を私の前に差し出した。
私と男との距離は、否がおうでも近くなる。
「ちょっとつけにくいんだけど・・・」
「やっぱり?じゃ、脱いじゃうね。ちょっと待って!」
まだネクタイはおろか、ボタンすらかけてなかったので
スルリとワイシャツは剥ぎ取られ、パサリと私の手に落ちた。
「家に帰ったら、ちゃんと奥さんに白糸で付け替えてもらってね」
「・・・これから東京出張なんだ・・・いいや、このままで・・・」
「かなり目立っちゃったけど・・・」
「いいよ。助かった!ありがとう。」
男はワイシャツに袖を通す。
ネクタイを締め、髪を整える。
まだ上気した体に背広は暑いと考えたのか
腕に掛け、アタッシュケースを持った。
そして、サッと手を上げ・・・
「行ってくる・・・」
出口に向かう男の背中に声をかける。
「お気をつけて・・・」
男はクルリと踵を返した。
にっこりと微笑んで私の前で立ち止まった。
「君・・・名前は?」
「え?○○ですが・・・」
「じゃ・・・富士山と掛けて、○○さんと解く!」
「その心は?」
「富士山も○○さんも日本一だよっ!」
「・・・(゜ロ゜)ポカーン!」
あまりにもベタで笑えない。喜べない。
ただ・・・(゜ロ゜)ポカーン!・・・である。
フロントに立っていると、いろんな人に出会う・・・。
そんなお話っ・・・。

いま、何位かなぁ~?
それぞれをクリックしてくれると嬉しいえんちです!
いつもどうもありがと~っ♪






もうひとつのお話っ・・・
ぴっちりとしたスーツに身を固め、アタッシュケースを持ち
いかにも真面目そうな男がフロントにやってきた。
業者の方だろうと思っていたら、その男・・・
面接の約束をしていると言う。
面接・・・?どこの?まさか?ここですか?
そのスーツ姿にはおおかた不釣合いなこの場所・・・。
あなたにこのユニホームはきっと着こなせない。
目を醒ませ・・・目を醒ませ・・・
フロントから送ったテレパシーに男は気付いただろうか?
