(前回までのお話はこちら→Dreamlike three days 1 ・2 )
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「ツナならそこにいるじゃねぇか」
リボーンが指で示したのは山本の膝上で丸くなり、まだ少し毛を逆立てたままの猫だった。
「小僧…これ、猫だぜ?帰ってきたらごみ箱の裏から出てきてさ、な~んか外に置いとけなくて親父に無理言って今日だけ中に入れたんだよ。こいつ頭良くてな~人の話しに相槌打つんだぜ?」
スゲーだろ?と我が物顔で猫自慢を始めた山本に、リボーンは大きく溜息をついた。
「山本…よく考えろ。そんな猫いねーだろ…。そいつが間違いなくツナなんだ。家にはウゼーのがいて色々とややこしいからな1番家が近かったココに置いてったんだ。」
山本は、リボーンに向けていた視線を猫へ移した。
そう言われると、全体的な猫の印象は綱吉を連想させる。
小振りな肢体に、ふわふわと気持ちのいい毛並、薄茶色でくるりとした大きな目…と順を追っていると、その大きな目と視線がぶつかった。
眉間にシワを寄せ半信半疑な表情をした山本に、何か訴えるような声で猫がニャアンニャアン、ニャアーンと鳴きはじめた。
よく耳にする猫の鳴き声よりも、アクセントがハッキリ違う鳴き方に、名前を呼ばれているような感じがした山本は、猫に向かって名前を呼んだ。
「ツ、ナ?」ニャア~ニャアアン
「ツナ」 ニャアン、ニャ~ン
「本当ツナか?!」 ニャーン、ニャオーンぅニャアーん
ツナ、ツナ、と何度も呼ぶと返事をするように鳴き、山本に近寄ってきた猫は分かってくれたことが嬉しかったのか、山本の手を舐め始めた。
「ハハ!くすぐってぇよ!そっか~ツナか~」
山本は、自分の手を舐めている猫の頭を、これでもかっと言う程撫で回した。
頭を撫でられて嬉しそうに見える猫の顔を睨みながら、リボーンは口を開いた。
「次はツナを元に戻す方法なんだが…」
「あぁ、ツナが後悔した事をさせりゃいーんだろ?ツナはここにいるんだし、すぐ解決するじゃねーか!」なぁ!と猫(ツナ)の頭をポンポンと叩く山本の爽やかな笑顔に、リボーンは肩の力が一気に抜けた。
「ん?小僧、どうしたんだ?」
山本は、口を開けたまま喋らなくなったリボーンの目の前でプラプラと手を振ってみた。
もしかして立ったまま眠ったのか?と顔を覗きこむと同時に、リボーンの目付きに鋭さが戻った。
「今のままじゃ、人間には戻れねぇんだ。猫のままだと鼻が小さすぎて弾が出ねぇ。“人間になった姿”でツナが後悔した事を実行しなきゃ意味がねぇんだ」
「…元の姿に戻るのは後悔した事を達成してから、じゃないのか?」
「…完全に戻るのは、な。満月の夜、0時から1分間だけ半透明だが人間に戻れるんだ。その1分で実行出来れば、弾が体から出てきて元に戻れるって訳だ。」
「それが、条件って訳か…。なぁ、小僧…もし1分以内に出来ないこと、だったら…?」
山本の疑問に、リボーンの眉毛が一瞬ピクリと動いた。
聞いてはいけない事に触れた気がした山本は、喉をゴクリとならせた。
「…まぁ、心配すんな。こいつの思ったことには、検討がついてる。次の満月は明日だ。明日の0時…日付が日曜に変わるまでにまた来る。それまで頼んだぞ。」
そう言うとリボーンは部屋の窓から外へと消えてしまった。
「!?こ、小僧!!」
慌てて窓から下を覗いてみたが、リボーンの姿は見えなかった。
「もぅ居ね…ぅわっ!」
外になびいたカーテンに手をかけた時、滅多と驚かない山本が大声をあげた。
チラリと覗いたカーテンから見えたのは、生首のように窓から顔だけ覗いているリボーンがいた。
「わりぃ。言い忘れてたが、ツナのことはママンが心配するから日曜までここに泊まる事にしてある。おまえの親父にも話はつけてあるから、心配すんな。じゃぁな」
驚かすだけ驚かしたリボーンは満足げな顔をして、屋根から塀へとつたうと暗闇の中へ消えていった。
窓を閉め、布団へ入った山本と猫(ツナ)は心拍数が上がったからか、しばらく寝付くことが出来なかった。
翌日-----
コチコチと時計の進む音だけがやたらと耳につく。
リボーンの言っていた時間まであと15分。
山本は何か考えている様子で畳の一点を見つめたまま動かなくなっていた。
“もしリボーンの勘が間違っていたら”っと考えると、何も手につかなくなってしまった。
ツナが後悔したことは検討がつく、とリボーンは言っていたが、1分以内に出来ること、なんてそうそうない。
ふぅっと小さく溜息が出た。
猫のままの綱吉でも充分可愛い。
言葉が離せなくても内容は理解しているので、質問形式でならなんら問題はない。
-でも、話しができるなら声が聞きたい、傍にいるなら、髪に、肌に触れ…
突然、ブンブンと頭を振り出した山本の顔は真っ赤でどことなく困った様子だ。
1人頭を抱えていたが、聞きなれない音がして我に返ると、猫(ツナ)が畳にゴロンゴロんと背中をこすりつけていた。
その様子がとても可愛くて、しばらく眺めていたが段々と壁に進んで行くので、頭をぶつける前に手伝ってやろうと腰を上げた時、部屋のドアが勢いよく開いた。
続く