キム・ヨナの『やめる力』 (韓国の雑誌より) | ツイズルのセカンドハウス

キム・ヨナの『やめる力』 (韓国の雑誌より)

『ブレーン(脳)』という雑誌に載ったコラムです。
タイトルから分かるとおり、結構、大真面目な雑誌のようです。
サイトも見ましたが、脳科学やら教育やら天才少女の紹介やら医学系論文の記事やらが載ってました。

だから、この記事もすごく長いです。
心してお読み下さいませ。

現代人は欲望に埋もれており、満たされすぎている、キム・ヨナの(高難度の技に挑戦するのをやめたような)『やめる力』が現代人には必要なのだ、という内容です。


キム・ヨナの『やめる力』
http://www.brainmedia.co.kr/report/view.asp?code=brain_health&An_num=1261&id=1376
『脳と心』 ブレーン vol.21

ブライアン・オーサーコーチに会ってからは完全に競争心自体を捨ててしまった。オーサー・コーチは初めてキム・ヨナを引き受けた時、珍しくも、高難度のテクニックに集中する代わりに、フィギュアをフィギュア自体で楽しむ方法、自分自身をありのまま愛する方法を教えたという。

$ツイズルのセカンドハウス-記事-ヨナの切り取る力(100611)

フィギュアの女王キム・ヨナがついに冬季オリンピック金メダルを取った。フィギュアに1gの関心もない私のような人間までテレビの前に集めた彼女の演技は、息をのむように美しくて胸が張り裂けそうに感動的だった。人々は1つのミスもしなかったキム・ヨナを、人間でなく神という。

そして、神とのライバル構図に置かれた『人間』浅田真央の不運を哀れに思ったりもする。
興味深いことは、こういうキム・ヨナにも、浅田真央が「とても越えることはできない四次元の壁」だった時期があったという事実だ。

「もうほとんど放棄だ。ジュニアだけでは足りずシニアでまで。本当に今日は憎い。なぜ度々行く手を阻むのだろう。そうだ、あなたは一位を取ればいい。私はあなたの後ろに付いて回るから。」4年前のサイワールドのミニホームページに書いたキム・ヨナの文だ。16才の少女は、自分を抑えて、いつも1位を取る競争者が少なからず悔しかったようだ。

さらに興味深い事実は、2007年日本バラエティー番組に一緒に出演した浅田真央とキム・ヨナの態度だ。「バンクーバーオリンピックで金メダルを取るのは私だ」という○×クイズで、浅田真央は○を、キム・ヨナは迷って×を出した。

幼い時からオリンピック金メダルだけを目指して走ってきた真央とは異なり、キム・ヨナにとって真央は金メダル以前に越えなければならない壁だった。司会者がなぜ金メダルを取れないと思うのかと尋ねると、すぐにキム・ヨナは、「それはその時になってみてなければわからない。」と用心深く言い、実際に自分が持っていない真央の柔軟性がとてもうらやましいと打ち明けた。

そして2010年、バンクーバーオリンピックの金メダルはキム・ヨナに渡った。それも、真央との点数差を20点以上つけて。

捨ててやめる引き算の成功法則

優雅さ、大胆さ、完成度….。全世界のマスコミが特筆して書くように、キム・ヨナが金メダルを獲得した理由をあげろと言うなら、数万種類があげられる。しか4し、彼女が今日、『フィギュアの女帝』になることができたのは、誰よりも激しい『やめる力』が作用したという点に注目する人はあまりないようだ。

キム・ヨナは、ミッシェル・クワンのような世界的な選手になるという夢のために、学業についていくことも、普通の女子学生としての生活も『やめた』。そう、このような選択は、偉大な夢を持つ人間ならば通あなければならない過程であり、可能であればそうするだろう。

しかし、彼女の『やめること』は、世界的な選手になってからも止まらない。彼女は、ライバル浅田真央を越えるために、トリプルアクセルという高難度テクニックに集中するのを「止めて」、自身が駆使できる技術の完成度を高めるのに集中した。

母親のパク・ミヒ氏は、「浅田真央はトリプルアクセルを駆使できるほど技術的に優れているが、ジャンプで若干規則に反する癖があって苦労している。ヨナは最初から派手な技術よりも正確にジャンプすることに焦点を合わせた。最近は規制が厳しくなり、ヨナのジャンプが相対的に高い評価を受けている。」と話した。

ブライアン・オーサーコーチに会ってからは、完全に競争心自体を捨てた。オーサーコーチは、初めてキム・ヨナを引き受けた時、珍しくも、高難易度テクニックに集中する代わりに、フィギュアをフィギュア自体で楽しむ方法、自分自身をありのまま愛する方法を教えたという。

だからだろうか。今回のオリンピックのショートプログラムで、キム・ヨナは浅田真央の完ぺきな演技の後にも少しの動揺もなく、ひたすら自分自身の演技にだけ没頭していた。銀メダルにとどまった浅田真央が、次回には4回転ジャンプに挑戦すると決意を固めるのと対照的に、キム・ヨナは人々に感動をあたえる選手になりたいという。

きらびやかでないながらもすっきりしていて無駄のない完璧なキム・ヨナの演技を見ながらしまったと思った。これまで私たちは、あまりにも満たすことにだけ慣れていたのではないだろうか。

行き過ぎた欲で、あるいは時代に遅れないようにという欲望で、必要以上の物を購入して、しなくても良いことの中に埋もれて、本来あるべき自分自身で生きていくことを怠っていたのではないだろうか。

サン・テグジュペリは、「完璧さというのは、これ以上追加することがない状態でなく、これ以上取りはらうことがない状態」と言った。現代人が道に迷ってさまよう理由は、方法がないというよりは道が多すぎるからだという指摘がある。私たちの生活がこのように疲弊した理由は、『希望』がないからではなく、『無駄な欲望』と『野望』を追っているからかもしれない。

だから、不足していることがほとんどないこの豊かな世の中で、かえって人生の豊かさを享受しにくいというパラドックスをしばしば目撃することになる。豊かさの中の貧困が日常になってしまった今、本来私たちに必要なことは、たすこと、所有すること、獲得すること、勝ち取ること、満たすことではなく、引くこと、割ること、捨てること、空けること、やめることの哲学、まさに『引き算の成功法則』なのかもしれない。

捨ててみると、本質があらわれる。本質を捉えれば、脳が一つの目標に向かって完全に統合される。成功する人はその本質を捉えた人だ。だから、キム・ヨナは金メダルと関係なく、すでに十分に勝者なのだ。

記事·ジョン・チェヨン ccyy74@brainmedia.co.kr |写真提供· <7分ドラマ>中央出版社



確かに、現代人は欲望にまみれ、多くの溢れたものに埋もれて暮らしています。だから、日本でも、あちこちでいろいろなものを『捨てる生活』ひいては『不要なものをそぎ落とした生活』の大切さを問う本等が出ているワケです。
そう言えば、大分前に、『捨てる!技術』なんて本がベストセラーになりましたっけ。
韓国でも状況は同じようです。

そう、この方がおっしゃっている趣旨は素晴らしいものだと思います。

しかし!

あの向上心を捨てたヨナの姿が、こんな素晴らしい趣旨に結びつくとは・・・。
文章は書きようですね・・・。

それにしても、ヨナはトリプルアクセルだけでなく、本当に多くのものをやめましたね。あげひばりの頃にやっていたスパイラルも、トリプル・ループも。
そして、その間に、真摯にフィギュアスケートに向かう姿勢も、他のアスリートに敬意を払うということもなくなり、アスリート魂を持つこともやめてしまいました。

ヨナの『やめる力』・・・この言葉は、別の意味でヨナの本質を表してますね。


・・・それにしても、ついに、『神』になっちゃいましたか、ヨナさん。