キノコで放射能除去 | 【 未開の森林 】

キノコで放射能除去

【 未開の森林 】

ポール・スタメッツ (Paul Stamets)は、アメリカの西海岸沿い、ワシントン州の原生林に覆われた地域に住む菌学者です。キノコの生態と栽培において世界有数の研究者である彼は、菌類を応用した「バイオレメディエーション」(有害物質に汚染された自然環境を回復する技術)を開発しています。

この分野において先駆となった実験では、石油に汚染された土壌にキノコの菌糸を植え付け、一ヶ月で重油がどれだけ分解されるかを測定しました。実験の最後では、キノコに虫が集まり、その虫を餌にする鳥が集まり、鳥の糞で肥やされた土壌から草が生えてきました。

彼が先月発表した記事で、日本で今起こっている原子力発電所の問題について、菌類と植物を使った放射能除去の可能性を掲げています。計画は以下の段階から成ります。

 1) 放射能汚染された区域から人々を避難させる。
 2) 環境生態学・森林管理・原子力における専門家、また政府関係者や市民を含む団体を編成する。
 3) 柵によって隔離された「原子力森林回復ゾーン」を設立する。
 4) 地震と津波によって倒れた木々、崩壊した建物の木材を細かく粉砕する。
 5) 木片からなる土壌を30~60センチの深さで土地に広げる。
 6) その地域に自生する落葉樹と針葉樹、また樹木と共生する菌根菌を植える。特に Gomphidius glutinosus, Craterellus tubaeformis, Laccaria amethystina の菌類は、土壌に蔓延する菌糸を通して放射性セシウム137を大幅に回収することが確認されている。
 7) 放射能に対する装備をした部隊がキノコを収穫する。
 8) 土壌から放射能を吸収したキノコは定期的に収穫され、放射性廃棄物として処理される。

汚染された環境が回復するには最低でも数十年はかかるだろうと、彼は推測しています。しかし何世代か経てば、この地域は国立森林となることも可能だと。

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地球の自然環境・生態系に人類が及ぼしている影響を考えると、微生物・菌類・植物を使った環境回復、バイオレメディエーションの技術は、将来、重要な役割を果たすだろうと思います。しかし、スタメッツ博士の提唱する計画には、政府、ボランティア団体、専門家の協力、また資金も必要です。実践に移すには多くのハードルがあると見えます。

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ちなみに写真で彼がかぶっているのは、硬いキノコで出来た自作の帽子です。

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【 参考リンク 】

ポール・スタメッツの記事(英語)
Wikipedia: バイオレメディエーション