ボッシュ作「地上快楽の園」【2】 | 【 未開の森林 】

ボッシュ作「地上快楽の園」【2】


中央パネル「快楽の園」

16世紀初期、ヒエロニムス・ボッシュ (Hieronymus Bosch) によって描かれた三連祭壇画の傑作「地上快楽の園」は、その中央パネルの光景から名付けられました。数え切れないほどの男女の裸体が入り乱れ、様々な鳥や動物、巨大な果実と戯れているのは、淫欲の罪を犯す人間達をあらわしていると一般的に解釈されています。


「快楽の園」の右にあるパネルは怪奇で痛々しい「地獄」の場面なので、罪深い生き様に耽った人間は地獄の罰を受けることになるという説明には筋が通っています。


中央上


中央右上


中央左上

しかし至る所に見られる幻想的な建物や、不可解な出来事は、従来の宗教画とは常軌を逸しています。道徳の教示を超えた、個人的または密教的な思想が背後にあるのではないかと思います。


池の周りで繰り広げられる騒乱は「罪を犯す人間達」というよりも、幻想的な祭りを楽しむ人々のように見えます。集団で果実を持ち上げたり、卵の殻に入っていくところは何らかの儀式でしょうか。


中央

画家ボッシュが用いた豊富なシンボリズムを理解する際に困難な点は、当時の鑑賞者にとっては明らかだったであろう視覚的な隠喩や連想が、現代の視点からでは想像しがたいことです。聖書からの寓話はもちろん、中世ヨーロッパの魔女伝説、民話や民謡からの要素も含むと考えられています。


中央左

この作品の真意については今でも論争が続けられています。本当にキリスト教の正統な信仰を表しているのか、それともアダム主義や秘密結社の教義が隠されているのか。地上で罪を犯す人間というには、あまりにも自然で無邪気な戯れだという指摘には同感します。最近ではユング派の心理学に基づいて、魂の純化を目的とする錬金術の過程を隠喩的に伝えていると解釈する傾向もあります。


右下


左下

これらの対立した意見に共通するのは、心理学や夢分析に通じる視覚的言語によって綴られたボッシュの作品を「文書」と見なし、そこからいかに意味を汲み取るかが主な問題であることです。

結局、どう解読されるかは見る人それぞれが作品に持ってくる思想背景、心理状態や想像力によるでしょう。無意識の領域に関心を持った20世紀のシュルレアリスト達が、夢世界の出来事をここまで鮮鋭に描写したボッシュに感化されたのも納得が行きます。

(・・・続く・・・)