ボッシュ作「地上快楽の園」 | 【 未開の森林 】

ボッシュ作「地上快楽の園」


閉じた状態で見られる扉の絵「天地創造」

1504年、ネーデルランドの画家ヒエロニムス・ボッシュ (Hieronymus Bosch) によって描かれた「地上快楽の園」は、彼の作品で最も有名なものです。ご存知の方も多いでしょうが、細部に密集する奇怪な生物や出来事に焦点を当てて、この不思議な作品に親しんでいこうと思います。

祭壇画の扉が閉められた時に見られる絵は、黒と緑の濃淡を使った、グリザイユと呼ばれるグレー調の描写方法によって描かれています。暗黒に浮かぶ水晶球に喩えられた世界では、空の雲から投げかけられた光が地上を照らしています。絵画の左上の部分に神がいます。専門家によると、この絵は天地創造の3日目を表しており、海と陸に隔てられた地上には生物がまだ存在していません。


開いた状態の3パネル

宗教的な題材を扱った「地上快楽の園」は、三連祭壇画と呼ばれる形式を持っており、教会の祭壇背後に取り付けられるために作られたものです。現在、スペインのマドリードにある世界有数の規模と内容を持つプラド美術館 (Museo del Prado) に所蔵されています。

この3枚の絵の意味は、美術史学者や評論家によって様々な解釈がされてきました。最も一般的な解説では、中央パネルが好色の罪を表し、その罪を犯した者が右パネルの地獄図で罰せられているとのことですが、アダム主義と呼ばれる性的な秘儀を重視する異教の影響を認める学者もいます。評論家の中には占星学・錬金術・魔術といった秘教を隠喩的に表す作品だと言う人もいます。

画家ボッシュの人生については資料が乏しいので、真相が明かされることはないでしょう。その謎めいた経緯も、この作品に魅力を与えていると思います。


左パネル「エデンの園」

左扉部分となる「エデンの園」では、キリストの姿をとった神がアダムとイヴを娶わせている光景が見られます。


ここまでは宗教画によくある典型的なイメージです。ただ右下の部分でカエルを喰らう鳥や、本を読む魚(?)が気になります。


左上の部分


中央の部分

この絵を伝統的な宗教画として片付けられないのが、背後の池にある建築物や、群がって飛び交う黒い鳥、象の上に座った猿、二足で踊るトカゲ、池で水を飲む一角獣などといった異様なシンボリズムです。上図の幻想的な塔の一番下を見ると、空いた穴にフクロウが座っています。


画面の中央右の部分に見られる爬虫類の群で成り立つ横顔は、数世紀後に活躍したシュルレアリスムの画家サルヴァドール・ダリを彷彿します。

こういった細部に見られる画家ボッシュのお茶目なユーモアが、五百年以上も人々を魅了し続けてきた理由の一つだと思います。

(・・・続く・・・)