牛骨オイルナット製作。 | ギター工房Eleven Guitars

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Eleven Guitarsの製作やリペアの工程を面白可笑しく紹介します。

オイルナット作っちゃいます。




少し長くなりますが、前置きから。



ナットには大まかに、弦の支点・各弦の間隔を揃えるという役割があります。
ヘッド付近の白くて四角い堅い奴!
それがナットです。


当工房に限らず、ナットに使用される素材は牛骨が大半を占めています。
牛の骨を切り出してナットに成形する…と言うとなんだか大層な感じがしますが、決して特別な素材ではなく、弦楽器黎明期から使用されています。


天然素材であり、適度な油分を含む為に弦との摩擦を低減し、チューニングが狂いにくいとされている牛骨。






ですが…



歴史上初めて牛骨をナットに使用した人。
あっ、牛の骨ここにつかってみよーかな…と思い立った先人はそんな事考えていなかったと思います。





たまたま近くにあったから。




これがきっかけなんじゃないかなと…あくまで想像ですが。







家畜と言えば牛。
古来から変わらずに牛。



肉や革をとった後の残りが骨。
処理に困る程あったと思います。





安定供給が可能、また石等に比べ加工が容易、さらに木に比べ耐久性・安定性が高い。





…もう牛骨使うしか無いでしょう。








時代は変わり21世紀。
合成樹脂の加工技術が発達した現代では、牛骨の代用として様々な素材がナットに加工されています、ナイロン、デルリン・ジュラコン、テフロンなどがこれにあたり、ハイエンドメーカー等でも採用が増えています。

化学合成ですので素材の安定性が高く、骨の様に「ス(鬆)」が入る事がまず無いので、倍音成分がロス無く表現出来ます。
また、そもそもの摩擦係数が低いので、適切な処理を行えば非常に高いチューニングの安定が得られます。


しかも最近はタスクに代表される「人工骨ナット」なんてものも。




書いてみて思いますが、牛骨の優位性といいますか、新素材に対抗出来るメリット。
牛骨を使用する意義が失われる程に新素材の優れた面が…




ですが、科学技術が発展した現代においても数百年前から変わらずに牛骨が最高の素材として認知されています。




なぜか!!
安定供給は樹脂には及ばない、天然素材であるが故の分子結合のムラもある牛骨がなぜトップシェアで使用されているのか。







古いものは良いものだ、懐古主義というか、古き良き…を地で行っている楽器業界だから!!
という事も理由の一つだと思うのですが。







もう一つ。




それは







骨使うって、すごいかっこいい











結局そこかい!!
と思われる方もおられるでしょうが、結局そこだと思います。




かっこよさって楽器を表現する上ですごい重要なファクターだと思うのです。
どれだけ優れた素材や機構を並べても、かっこわるいとそれだけで見向きもされません。


決して樹脂ナットを批判する訳では無いという事は理解して頂きたい!!


ですが、綺麗に成形された牛骨ナットの陶器のような艶、濃淡のある奥行きを感じる色味と比べると、樹脂製のナットはどうしても無機質でおもしろみのない印象になってしまいます。







そこでですね






デメリットを出来るだけ少なくした牛骨ナットを作ろうと。
こんなに長い前置きの結論がものすごくあっさり。
何かと理由を付け、納得しないと動かない性分です。
その結果がこの前置き…お許しください。




では製作に入ります。

冒頭で言っちゃってますが、オイルナットを作ります。
ただの牛骨ナットではなく、“オイルをしみ込ませた”牛骨ナット。


偉そうに言っていますが、結構一般的な素材です。
普通に売っています。
さらには、無数の工房さんが自家製のオイルナットを製作し、使用しています。



実際、当工房でも市販のオイルナットを使用していた事もあります。
ですが正直な所、普通の牛骨ナットとの違いがよくわかりません。




じゃあ作ろう!!
というのが今回。
前述の通り何かと理由を付けないと…



…はじめます。









まず無漂白のナットを用意します。
漂白ナットでも良いのですが、無漂白のナットの方がオイルのしみ込みによる発色が綺麗、琥珀のような飴色が出ます。




一度にたくさん作れないのが難点です。
5つ同時に製作します。
オイル含有量を知る際、重量の変化で判断すると分かりやすいので、都度計りながら製作していきます。
5本で24.3㌘。


このナットを脱水、脱脂します。
ある方法で処理するのですが、処理後の写真がこちら。



ナット内部の水分・油分が表面に滲んできます。

一気に処理すると内圧が高くなりすぎるのか亀裂が入りますので、時間をかけてゆっくり。
表面を拭き取り、同じ処理を3度程行いますと、滲みが全く出なくなります。



この処理後、重量に変化があります。



ナット自体にも明らかな変化があり、表面がカサカサ。
ですが写真ではあんまり分からないです。

骨の表面には細かい孔が空いていています。
その中に油分等の有機物、水分が含まれており、これらを強制的に排出します。


処理が完了したら次は液体にドボン!!



当然、液体は水ではありません。シンナーの一種です。

油分・水分の抜けきった細かい穴の中に液体をしみ込ませます。
投入したとたんに骨表面からたくさんの泡が。
乾燥しきったスポンジを水の中に入れたときと同じ現象です。

泡が出なくなるまで1日放置。



その後オイルに投入します。



60℃~65℃温度をキープ。
コーヒーメーカーを改造しました。
もうコーヒーは飲めません…

オイルは100%化学合成油、かつ、手に入るもので一番粘度の低いものを、何の事は無い自動車用のエンジンオイルです。
鉱物油でも試しましたが、粘度が高すぎるのか、荒いのか分かりませんが、全くしみ込みませんでした。




ここでも泡が出ます。
孔内を充たしているシンナーが揮発し、代わりにオイルがしみ込んでいるサインです。

泡が出なくなってきたら時々揺すってやるとまたブクブク…
2日程で全く泡が出なくなります。



オイルが完全にしみ込むと、重量が変化します。




24.9㌘。
最初の状態より重くなれば成功。
水より油の方が体積が大きいので、孔内の水が油に置換されると、重量も重くなります。


完成!



上:普通のナット 下:Eleven Guitars製オイルナット


写真だと伝わりにくいですが、オイルのしみ込みにより、色味に差が出来ています。
ですが、常温のオイルに長時間つけ込んだだけでも表面のみこような色になる為、しっかり内部にオイルが行き渡っているか確認します。
ナットとして成形する際にはこの状態から削り出しますので、内部にオイルの浸透が無いと全く意味がありません。




切断!

上:Eleven Guitarsオイルナット 下:普通のナット




切断面をならし、磨きました。



左:Eleven Guitars製オイルナット 右:普通のナット

バッチリしみ込んでいます!!

新しいオイルにつけ込み保管。



すっごいスムース!!


使用感を文章で表現出来る語彙が欲しい…
この違いは取り付けて頂いた方にしか分かって頂けないと思います。


納得の仕上がりです!
通常のナット交換に、オプション(+2,000円)でEleven Guitars製オイルナットはいかがでしょうか!!
※フェンダータイプ用、ギブソンタイプ用、4弦・5弦ベース用、アコースティックギター用・同サドル用の在庫がございます。
生産性が恐ろしく悪いので、特種サイズに関しては受注生産になります。


秋元




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