トヨタ自動車が2年連続3度目の優勝
    序盤おくれるも終盤に満を持して逆転!


 ニューイヤー駅伝として知られる全日本実業団駅伝は、60回目の記念大会となり、今年は例年より6チーム多い、43チームでおこなわれた。
 混戦が予想される今回はみどころの多い大会だった。
 中部予選で圧勝したトヨタ自動車の連覇がなるかどうか。
 昨年2位のコニカミノルタも戦力充実している。さらに東日本実業団を5年ぶりにHondaも勢いがある。同2位の日清食品も優勝争いに絡んできそうでる。あとDeNAなども上位争いに絡んできそうな気配感ぜられた。
 若手の台頭で興味深いトピックももりだくさんである。
 たとえば期待を背負う2組の双子兄弟に要注目。
 まずは設楽ツインである。
 Hondaの悠太は昨年の世界陸上10000mにも出場、すでにHondaのエースに成長している。昨年の本大会で4区で区間賞を獲得、今年は11月の東日本実業団でHondaを優勝にみちびいた。
 コニカミノルタの兄・啓太も昨年4区でデビュー、区間4位に終わったが、チームの柱になりつつある。
 旭化成のツイン・ルーキー、村山謙太と村山紘太も箱根駅伝のスターで、昨年は兄弟そろって世界陸上出場を果たした。若くて勢いのあるふたりが両輪となれば、旭化成の17年ぶり優勝も夢ではなくなるとみていた。
 設楽兄弟はHondaとコニカミノルタという優勝をねらうチームで覇をあらそい、村山兄弟は同じチームで古豪復活のキイマンとなっている。
 さらに今井正人(トヨタ自動車九州、順天堂大OB)と柏原竜二(富士通、東洋大OB)による箱根駅伝の新旧「山の神対決」が実現、直接対決でふたりが肩をならべて競い合うシーンがみられるのではないかという期待もあった。


 オーダリストをみて驚いたのは旭化成である。1区・鎧坂哲哉、2区・村山紘太、3区・大六野秀畝、4区・村山謙太……。注目の村山ツインを含めて、すべて箱根駅伝で名を馳せた若きスターたちではないか。旭化成といえば、無名の高校生ランナーを手塩にかけて育てあげ、檜舞台に送り出すのを常としてきたが、いったいいつから宗旨替えして銘柄級の名のある大学生をとるようになったのか。
 それにしても、この4人がベストのデキなら、優勝争いにからんでもくるかも、と想わせられたのである。

 第1区から3区までをワンセットと考える。3区を終わった時点で、いったいどの位置に付けているかが覇権争いのポイントになるというのが本大会のポイントである。


 注目の第1区……。
 例年通り、1区のエキスパートの顔がそろい大混戦の幕開けだった。1㎞3分というスローペースで大集団ですすんだ。5㎞になっても14分43秒とゆったりとしたペースで43チームはだんご状態。旭化成の鎧坂が集団の中程から前方へと上がってくる。
 9㎞になって旭化成・鎧坂がペースアップ、落ちこぼれるチームが出てくるが、いぜん先頭集団は35人という大集団はゆるぎもしない。
 11㎞になってDaNAの高橋優太が先頭を引っ張り、最後はスパート合戦による結着にゆだねられた。ラスト勝負を制したのは日清食品グループ・若松儀裕、2位・中国電力、3位・コニカミノルタとつづいた。連覇を狙うトヨタ自動車の早川翼はトップから9秒差の14位、旭化成は先頭から10秒差の16位だった。第1区は先頭から53秒以内に全チームがおさまるという大混戦で2区に突入した。


 2区はいわば外国人ランナーの特区で43チームのうち25チームまでが外国人ランナーを配している。スピード勝負の8.3㎞区間である。外国人が次つぎに前に出てきて、みるみる先頭から20位すぎまで、外国人ランナーの競演になってしまった。
 5㎞を先頭の日清食品グループ・レオナルドが13分27秒のハイペースで通過、トヨタ自動車九州のズク、DeNAのビダン・カロキら外国人ランナー8人が2位集団で追ってゆく。。
 興味は16位でタスキをもらった旭化成のルーキー・村山紘太の走りであった。5000mの日本記録を更新したばかりの若い力・村山が外国人ランナーにどこまで通用するのか。おおげさにいえば、日本長距離の未来を占う重要なシーンであった。
 だが、村山は出足はよかったものの、中盤から失速してしまった。前を追うどころか、外国人ランナーに次つぎかわされて後退していった。苦しげに顔をゆがめる姿が、今の日本長距離のありようを象徴的にものがたっていた。村山紘太は最終的に区間24位で、旭化成は21位に後退してしまった。ちなみに2区の区間賞は九電工のP・タヌイで22:28、村山紘太は1:08も置いてゆかれ、まったく歯が立たなかったのである。


 2区を終わってトップは日清食品グループ、2位は9位からあがってきたHondaで5秒遅れ、3位はタヌイの区間賞で20位から大躍進の九電工でトップから7秒遅れ、4位は12位からあがってきた安川電機でトップから10秒遅れ、5位は富士通で11秒遅れ、6位には候補の一角。トヨタ自動車が11秒差でやってきた。

 日清食品の3区は佐藤悠基、絶好の滑り出しのリズムに乗って、独走態勢にもちこむかと思いきや、4㎞をすぎて、後続がひたひたと追ってくるではないか。
 2位集団からDeNAの上野裕一郎が抜け出し、佐藤を追いはじめたのである。そして5㎞ではとうとう上野は佐藤をとらえてトップを奪った。上野は5㎞を13分35秒と、ハイペース、佐藤も懸命に食らいついた。後ろは15秒遅れでトヨタ自動車九州・渡邉竜二、安川電機・佐護啓輔、さらにトヨタ自動車の大石港与とコニカミノルタの菊地賢人が追いつき、4人の集団となる。
 6㎞でDeNA・上野が日清食品佐藤を少しずつ引き離しにかかる。差はじりじりとひろがり、上野が先頭でタスキを繋いだ。27秒差の2位で日清食品グループ。トップ38秒差の3位にコニカミノルタ、42秒差の4位でトヨタ自動車、49秒差の5位でHondaがたすきをつなぐ。旭化成は先頭から1分46秒遅れの14位といぜん低空飛行のままだった。


 今回のいちばんのみどころはやはり最長区間(22㎞)4区だったろう。注目は3区で5位までやってきたHondaの設楽悠太であった。
 先頭をゆくDeNAは室塚健太、位・日清食品は村澤明伸、3位のコニカミノルタは宇賀地強というエースが顔をそろえている。4位のトヨタ自動車は社会人2年目の窪田忍、そのうしろから追う5位・Hondaの設楽悠太は1㎞=2:40というハイペースの入りであった。
2㎞すぎで悠太は早くも窪田、宇賀地、村澤をとらえて2位に浮上、3㎞では逃げるDeNA・室塚の背後にひたひたと迫った。5㎞の通過が室塚が14分19秒、設楽は13分36秒だから差はみるみる詰まった。そして5.9㎞で悠太は室塚を一気に抜き去りトップに立つのである。
 後では旭化成で2区を走った村山紘太の兄・謙太が追い上げを開始、三菱日立パワーシステムズ長崎の井上大仁、富士通の星創太とともに6位集団にくらいつく健走をみせていた。
 設楽は先頭をうばったものの、猛烈な向かい風に阻まれて、後半は苦しい走りとなった。19㎞では2位集団のトヨタ自動車、日清食品グループが設楽との差を少しずつ詰めはじめていた。
 20㎞では2位集団との差は13秒までつまり、設楽は何度も後ろを振り返り、右の太腿をたたくというシーンもあった。だが、粘りの走りで最後まで押し切り、自身が昨年マークした区間記録をみごと更新した。17秒差の2位でトヨタ自動車、1秒遅れの3位で日清食品グループがつづき、4位はDeNA、5位はコニカミノルタであった。

 4区で2位まで浮上したトヨタ自動車の5区はスピードランナーの宮脇千博であった。逃げるHondaの服部翔大を、宮脇は激しい向かい風なか、日清食品の矢野圭吾と2位集団をなしてひたすら追っていった。宮脇はひとたび矢野に置いてゆかれたものの、8㎞で追いついて抜きかえした。だが10㎞すぎで、こんどは後ろから追ってきたコニカミノルタの山本浩之にとらえられるも、ここからしぶとさを発揮する。2位集団となって服部を追いかけ、11.8㎞では一気にペースアップして服部をかわし、粘る山本をも置いていったのである。
 後方ではトヨタ自動車九州の今井正人と富士通の柏原竜二の「山の神」の新旧対決が相手の見えないという状況でくりひろげられていた。


 5区の太田市役所中継所で、今井が7位、柏原が20位でタスキを受けとるかたちとなり、二人が直接つばぜり合いを演じるシーンは見られなかったが、それぞれ見えない相手とけんめいに戦っていた。今井はすぐ6位まで押し上げ、終盤では4位まで浮上、区間2位の快走でトヨタ自動車九州3位の原動力となった。柏原は20位で受け取ったタスキを17位で渡した。区間9位ながら順位を3つ押しあげる走りをみせたのである。
 トヨタ自動車の宮脇がスパート合戦を制し、ここでわずか2秒差ながらコニカミノルタを押さえたはトヨタにとっておおきかったといえる。
 トヨタ自動車の6区は田中秀幸、追うコニカミノルタは設楽悠太の兄・啓太であった。 トヨタは5区でトップに立ち流れに乗ったというべきか。田中の仕掛は速かった。1.5㎞で前に出たかと思うと、3㎞で一気に突き放しにかかる。設楽はそれでも粘り強く、持ちこたえていたが、7㎞で10秒、9㎞で17秒とその差はじりじりとひろがっていった。


 6区を終わってトップのトヨタ自動車とコニカミノルタとの差は33秒、かくしてアンカー勝負に持ち込まれた。
 トヨタ自動車の6区のランナーはルーキー・山本修平である。追うコニカミノルタは野口拓也、猛然とトヨタを追った。だがトヨタ自動車の山本が安定した走りでトップをゆずらなかった。一時は野口に13秒差までつめられる局面もあったが、落ち着いた走りで後半は突き放して2連覇のゴールにとびこんでいった。


 優勝したトヨタ自動車は区間賞はひとつのみである。とびぬけたスーパーエースといわれるような存在はみあたらなかった。だが個々のランナーが自分の役割をよく認識して、ここぞというときに勝負強さを発揮した。監督が「総合力の勝利」といように、メンバー全員がさしたるミスもなく、安定した力を発揮したのが勝因だろう。
 2位のコニカミノルタは惜しかった。わずか20秒差である。2区のポール・クイナが犬の飛び出しで転倒、後退して31秒差の区間14位に沈んだのが痛かったか? だが駅伝はアクシデントがつきものである。それが理由にはなるまい。
 3位のトヨタ自動車九州は今井正人の爆走が産み出したものとみていい。
 4位のHndaも中盤では、悠太の快走であわやの局面もあった。いつもながらもう一枚が不足していた。
 5位のDeNAも前半はレースを支配していた。昨年より順位をひとつ上げての5位はまずまずといったところか。
 ちょっと期待はずれは日清食品グループの6位か。前半は好発進したが、後半はいまひとつ伸びを欠いていた。
 旭化成も最後は7位までやってきたが、その順位は銘柄級の箱根ライナーのよるものではない。皮肉にも4人の影にかくれた存在の5区からの3人が稼いだもの、なんとも皮肉というほかない。


 上位に来た顔ぶれをざっと見わたして、おもしろいのは企業業績と駅伝レースの結果に相関があるという事実である。企業業績の好調な会社のチームが着実に上位を占めているのである。自動車産業、ネットによるサービス業、産業用計測機会や複合機メーカーなどなど……。当然のことながら、これらチームでは選手の待遇も良く、選手強化費なども潤沢に投じられているのだろう。


◇ 日時 2016年 1月 1日(金=祝) 9時00分 スタート
◇ 気象 天気:晴れ 気温5.4 湿度35% 西南西2.1m
◇ コース:群馬県庁スタート~高崎市役所~伊勢崎市役所~太田市尾島総合支所~太田市役所~桐生市役所~JA赤堀町~群馬県庁をゴールとする7区間100km
◇トヨタ自動車(早川翼 J.カマシ 大石港与 窪田忍 大石港与 宮脇千博 田中秀幸 山本修平 )

▽TBS公式サイト:http://www.tbs.co.jp/newyearekiden/
▽総合成績:http://home.m07.itscom.net/jita/man_ekiden/pdf/ny60_1.pdf