ユニバーサルエンターテイメントが3連覇!
   最終・アンカー対決で生きたベテランの味


 3本の指を空にかざしてゴールテープを切った那須川瑞穂の笑顔が秋空のもとできらきら輝いていた。
 まれにみる混戦模様といわれた本大会、4区を終わったところで、ユニバーサルエンターテイメント、パナソニック、第一生命が混戦から脱け出した。そして5区と6区ではユニバと第一生命が先んじて、最終6区(6.3㎞)では両チームのマッチレースとなった。ユニバは那須川瑞穂、第一生命は松見早希子、ともに一歩もゆずらぬまさにガチンコ勝負となった。
 那須川瑞穂、美形ランナーのナンバーワンの呼び声も高く、34歳にしていまなお第一線にある。めずらしく息の長いランナーである。
 中・長距離の女性ランナーは消長がはげしく第一線で活躍できる期間はきわめて短いといっていい。調子の波も上下がはげしく走ってみなければわからない。
 今シーズンの女子駅伝は、これまでリード役をつとめてきた赤羽有紀子や新谷仁美などがいなくなり、駅伝では絶対的な強みをほこった渋井陽子もかっての面影はない。いわば世代交代期をむかえているのだが、そんななかで大ベテランの那須川が輝きを放ったのはいかにも皮肉というほかない。


 さすがにベテランというべきか。勝機を見る眼はたしかだった。
 那須川は終始冷静だった。松見と併走して、追ってくるパナソニックの中村仁美をちぎってしまいマッチレースの様相、松見のようすをうかがいながらなんどもスパートをかけた。3.8㎞でいちどしかけ、4,4㎞でもういちどしかけている。最後のトラック勝負になれば勝ち目がないと思ったのか。ロングスパートのタイミングをはかっていた。
 そして4.5㎞のアップダウンのところで一気にペースアップした。追う松見の顔がゆがみ、差はじりじりとひろがっていった。……


 下馬評ではユニバが候補の筆頭、尾西、松崎の二枚看板の積水化学、全日本10000mの覇者・西原を中心に勢いのあるヤマダ電機、安定感のある第一生命、パナソニックも前評判が高かった。しかし上位はそれほどの有意差はなく、ひとつくるえばどうなるかわからない混戦ムードいっぱいだった。
 それゆえに勝負のポイントはいつもながら出足であった。かくして1区から熾烈なサバイバルレースがくりひろげられた。
 1㎞=3.16といえば比較的速い展開であった。ホクレン(宮内宏子)がひっぱるかたちで進み、第一生命(西澤果穂)、ユニバ(和久夢来)、パナソニック(森田香織)、積水化学(尾西美咲)など主力どころは好位をキープしていたが、5.8㎞でなんとヤマダ電機の西原加純がずるずると後退、早くもここで圏外に去ってしまった。
 脱け出したのは積水化学、第一生命、ユニバ、パナソニックで、最後は積水の尾西が地力を発揮してトップ通過、6秒差で第一生命、ほとんど同時にユニバ、そしてパナソニックもトップから10秒以内でつづいた。西澤と和久はともに高校でのルーキーで、2位、3位につけたのは大健闘、新しい戦力が好走するとチームに勢いがつく。
 候補の積水、第一生命、ユニバ、パナソニックはサバイバルで生き残ったが、ヤマダ電機はエースの西原で45秒遅れの10位と出遅れてしまった。おそらく体調が万全ではなかったのだろう。


 2区では7位につけていたスターツがR・モニかの区間賞の快走で2位までやってくる。トップの積水から5位のパナソニックまではわずか15秒、そのなかにユニバ、第一生命はとやんとはいっている。ヤマダ電機は56秒差とさらに遅れて、完全に優勝争いからは置いてゆかれた。
 もっとも順位の変動がめまぐるしかったのは3区である。トップをゆく積水化学(松崎璃子)をスターツ(土井友里永)、第一生命(田中華絵)、ユニバ(青山瑠衣)、パナソニック(山崎里菜)という実績のあるランナーが集団で急追、後ろからアジア大会10000mで銅メダルの萩原歩美(ユニクロ)が追ってくるという展開になったのである。
 4.5㎞でスターツが遅れ、積水、パナソニック、第一生命、ユニバがトップ集団を形成、残り3㎞あたりからのトップ争いは熾烈をきわめた。積水の松崎が出てかと思うと、パナの山崎がロングスパート、両者が脱け出して一騎打ちとなり、最後は山崎里菜が先んじた。3区を終わってトップのパナソニックから4位のユニバまでわずか18秒、5位以降は40秒以上も差がつき、優勝争いは4チームにしぼられた。


 4区からのヨーイドンで主導権を握ったのはユニバであった。F・ワンジュグでやすやすとトップを奪ってしまった。積水はここで圏外に去ったが、2位のパナソニック、3位の第一生命までがわずか15秒、優勝争いは3つどもえの様相となった。その傾向は5区でも変わることなく、アンカー勝負にもちこまれたのである。


 3連覇を達成したユニバサルエンターテイメントは区間賞は4区のF・ワンジュグのひとつだけで、他の5人はミスをしなかった。圧倒的な強さというものは感じないが、安定感で優ったというべきか。
 第一生命、パナソニックもつねに上位争いにからみ、地力のあるところをみせた。クイーンズ駅伝でも上位が期待できそうである。
 候補といわれた5強のうち積水化学は5区で失速9位に終わったが、前半で圏外に去ったヤマダ電機が後半追い上げて最後は4位まで仕上げてきた。最終区の森唯我の区間新記録の快走で7位から一気に4位までやってきた。その底力は本戦でも期待できそうである。

 結果、ユニバーサルエンターテイメント、第一生命、パナソニック、ヤマダ電機、しまむら、三井住友海上、ユニクロ、積水化学、ホクレンの9チームが本戦出場となったが、常連の資生堂は17位、日立は11位で落選して明暗をわけた。資生堂は本戦でも優勝経験のあるチームだが連続出場が16年でとまってしまった。


 東日本実業団女子駅伝は、暮れの全日本実業団女子駅伝の関東地区予選の位置づけで埼玉でおこなわれてきたが、今回が最後の大会になってしまった。
 日本実業団陸上競技連合はさきに全日本実業団対抗女子駅伝(毎日新聞社など共催)の予選を来年度から全国で一本化すると発表している。
 予選はこれまで東日本、中日本、西日本の3地区で開催されてきた。しかしバブル崩壊以降は出場チーム数は減少傾向にある。さらに地区別に実力の偏りもあるというのが実情だ。昨年は予選出場33チームのうち27チームが本大会へ進むという、予選の体をなさないという現象さえ生じた。
 そこで来年度は本大会の出場枠を22として、8チームをシード、予選会をひとつにして14チームを本大会への出場させるというのである。緊張感のある予選にするのがねらいだというが、要するにメディアとむすびついたビッグスポーツであった女子駅伝の人気も翳りがみえてきたことの証だといえるだろう。


 最後の埼玉大会で優勝したユニバーサルエンターテイメントのランナーたちはこぞって「埼玉県のみなさん、25年間ありがとうございました」と声を合わせるのをやるせない思いで聴いていた。埼玉在住でなんども本大会を追っかけたこともある筆者にしてみれば、全日本大学女子選抜駅伝につづいて、この東日本実業団女子駅伝が埼玉から姿を消してしまうのが、なんとも淋しい思いがする。


◇ 日時 11月03日(月=祝)午前8時00分スタート
◇ コース:JRさいたま新都心駅(旧中山道)~鴻巣~(国道17号)~吹上(旧中山道)~(国道17号)~熊谷駅前~熊谷スポーツ文化公園ゴール  6区間=42.195km
◇ 天候:晴れ  気温13.0度 湿度33%  風:東北東1.4m
◇ ユニバーサルエンターテイメント(和久夢来、木村友香、青山瑠衣、F・ワンジク、永尾薫、那須川瑞穂)

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:http://sairiku.net/xoops/newinfo/kekka/2014/H261103Fr.pdf