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ECBの「国債買取ポリシー」について

先週末は、リフレッシュさせて頂きました。最近、週末は遠方に出向く事が多いのですが、洗車後に雷雨(ゲリラ?)と、文字通り「水を差される」事が多いですね。それでも、最近の週末は楽しいです。


先週、ECBの政策が発表され、現在、次回9月FOMCが注目されている。めまぐるしい状況の中、1つ1つの政策内容を把握するのに、投資家の皆さんも大変な事だと思われる。


ECBの政策は決定した。個人的には、「利下げが遠のいた」事については、先月末に明言しており、政策内容については真新しさは無かった。自分が知っているところでの金融専門家の中では、今回のECB無制限買取政策については、皆ほぼ同じ意見、いってしまえば、「上手くいくはずもない」といったコンセンサスが形成されている。


「国債無制限の買取」の前には条件が付いている。付いている、というか今後2週間で明らかになるとされている。ECBドラギ総裁は、「重債務国(ここではスペイン)が遵守しないのであれば、すぐさま買取停止」という事を明言したが、停止とした途端、利回りは上昇、ECBのそれまで買い取ったスペイン債価格は急下落、それとともにECBは大きな損失を抱え込むことになるだろう、つまりのところ、買取を一旦スタートすれば、途中で停止などできるはずもない。


それに伴う不胎化措置だが、どのようなツールを利用して流動性を吸収するのだろうか?昨年のSMPのようにターム物預金にて流動性を吸収するのであれば、ほぼ確実に放出した流動性を吸収する事は不可能だろう、昨年とて、ターム物預金を活用した流動性吸収では、何度か失敗に終わっている。つまりのところ、目標額に応札額が届かず未達と終わった事で、意図せざる量的緩和 を生みだしている。無制限アウトライトオペに対して、無制限不胎化など不可能であることは、ちょっと事情に通じている人間ならば直ぐに分かる事だ。


ちなみに、今回SMPからOMTという名称に変更となっている。もともとSMP自体がアウトライトなので、やる事自体は同じ、一般投資家の方にとっては、この名称変更自体、さしたる意味をもたない。 このOMT、量的緩和のツール、という事になるわけだが、公開市場操作のイレギュラーオペによって市中から流動性を吸収する


つまりのところこれは、市場関係者の皆さんが好きな言葉であるQE(量的緩和)ではなく、ECBによるCE(信用緩和)、あくまでマネーストックを拡大せず、国債利回り低下を目的としたものだ。 不胎化によってマネーストックは拡大しないので、為替レートの視点から考えれば、さしたる意味をもたない。バランスシート拡大=量的緩和、という訳でもない。なので個人的には、新SMP(OMT)に関する為替レートの内容には言及していないわけです。


ちなみに、経済評論家の三橋貴明氏 なんかが、


>今回のECBの決定は短期債の購入であり、しかも不胎化措置が行われてしまうため、個人的には不充分もいいところだと思います。やるならば、アメリカFRB方式で長期国債の買い取りをやらなければなりません。ECBは、結局のところ「そこまで」は踏み込めなかったわけです。


などといった事を吹聴しているようだが、不十分も何もECBは流動性放出によってインフレを招かない事を前提としているからこそ、不胎化(流動性吸収)するわけであって、繰り返しになるが、彼ら(ECB)の目的は量的緩和でも何でもない。

彼ら(ECB)が実践しようとしているのは、重債務国国債価格の信用緩和。繰り返しになるが、QEではなく、「CE」なのだ。


FRBやECBの緩和政策に関し、「QE」と一くくりにし、デマゴーグを吹聴する、このような輩の論調が目につく時がある。「ただの経済好き」の人が見るならまだしも、「投資家」は、決してこのような論調を鵜呑みにしてはならない。(恐らくしないだろうが)


そういえば、バーナンキのジャクソンホールスピーチ全文 を読んだ方はどのくらいいるだろうか?彼はQEを実行するに当たって、複数のコスト(代償)を強調している。その中の一つに、「国債利回りが予想に反して上昇した場合、FRBの保有する債券価格は目減りし、大きな損失を抱える事になる」といったものがあった。バーナンキは、コスト(代償)を現実的に捉えている。


先進国中央銀行は、金融政策実施にあたってこの手の「コストリスク」にさらされている。前述のように、ECBとて途中で買取を止める事ができなくなる事を考えれば、その実効性自体疑わしい、と考えるのが「まともな人」の考え方になるだろう。