成年後見制度 より良い仕組み考えたい | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

成年後見制度 より良い仕組み考えたい

「成年後見制度」は、認知症のお年寄りや知的障害者など判断能力が不十分な成人を支援する仕組みである。その大切な制度の存在意義が問われかねないような事態が最近、増えているという。

 この制度は高齢社会を見据えて、介護保険制度とともに2000年4月に創設された。原則、家庭裁判所が援助者として選任した後見人が、本人に代わって財産を管理したり、介護保険の契約や預金の払い出しなどさまざまな手続きをしたりして生活を見守るのが役目である。

 後見人には親族がなる場合が多いが、弁護士や社会福祉士など専門職や、わずかだが一般市民も選任されている。

 ところが、そうした高齢者などの生活と人権を守るべき後見人による不正行為が、このところ相次いでいるのだ。このままの状態が続けば、制度崩壊の恐れさえある。事態は深刻といえよう。

 最高裁によると、昨年9月までの16カ月間で、後見人となった親族などによる財産の着服は306件、総額で約35億4千万円(うち、九州と沖縄の8家裁管内では40件、約4億8600万円)に上った。同時期に弁護士など専門職後見人による不正も8件、約1億5860万円あったが、身内の親族などによる不正行為が格段に多いことが分かる。

 このため、最高裁は今年2月から、成年後見に財産の信託制度を活用した「後見制度支援信託」を導入した。

 悪質な後見人による財産の使い込みを防ぐのが狙いで、後見人は日常生活で使う資金のみを管理する。それ以外のお金は信託銀行が預かり、多額の出費が必要になったときは家裁の許可を得て払い戻す。専門職の後見人に払う報酬に比べて費用負担が少ないのも特徴である。

 ただ、専門家の中には「被後見人の生活実態に合った柔軟な財産管理が難しくなる」との声がある。「後見」と「信託」という一般には分かりにくい制度が絡み合い、理解しにくいのも難点だ。

 後見人不足も大きな課題だ。

 最高裁によると、10年の成年後見人依頼件数は約3万件に達し、発足当初の約7500件から4倍に増えた。これに対し、認知症の高齢者は現在、約200万人とされ、知的・精神障害者も含めると成年後見が必要な人は約500万人にもなるといわれている。多くの人が制度を利用できていないのが実情だろう。

 近年、研修によって自治体が一般市民の後見人を養成する動きが出てきた。だが、法的な資格も血縁もない他人が財産を管理することへの懸念も根強い。一方で、親族後見人であっても資質のほか、倫理性が求められるのは当然だ。

 こうした不安を払拭(ふっしょく)するため、公的な資格制度を設けることを考えていい。低所得者でも後見人を依頼できる公的援助による派遣制度も必要ではないか。

 高齢社会を迎え、成年後見制度の重要性は一層高まっている。より良い仕組みを社会全体で考えていきたい。


=2012/03/21付 西日本新聞朝刊=