介護職処遇改善交付金 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

介護職処遇改善交付金

「介護職処遇改善交付金」予算切れ


 ■月1.5万円の賃金増 来年度どうなる

 介護現場で働くヘルパーの給与を月1・5万円引き上げようと、平成21年秋から支給されている「介護職の処遇改善交付金」。今年度いっぱいで予算が切れるため、介護職や施設経営者から「来年度はどうなるのか」と不安の声が上がっている。交付金を継続するのか、あるいは来年度の介護報酬改定に組み込むのか-。東日本大震災を経て財政はますます行き詰まっており、糸口さえ見えていない。(佐藤好美)

 千葉市の訪問介護事業所で働く常勤ヘルパー、大塚綾子さん(57)=仮名=は「処遇改善交付金で介護職の働き方に光が当たったのは、本当にありがたい。来年はどうなるんでしょう。ぜひ、良い形で続けてほしい」と言う。

 ただ、現場での交付金の配られ方には疑問もある。大塚さんの事業所では、春と秋の2回、介護職に交付金が「一時金」の形で配られた。常勤ヘルパーの大塚さんには各回5万円。パートのヘルパーは勤務時間数に応じた額。しかし、現場には思わぬ混乱が生じた。

 大塚さんはため息をつく。「うちはパートのヘルパーが多いので、やりくりが大変でした。パートさんは年間いくらまでという額を超えないように働く人が多いので、交付金をもらった分だけ仕事を減らします。その分の仕事は私たち正社員がカバーするしかない。パートさんが年収調整をする12月は、とりわけ山のような仕事が社員にかかり、『これじゃあ、合わないね』って話になりました」

 パートのヘルパーは、夫の健康保険や厚生年金の被扶養者になる年間130万円の枠内で働く人が多いからだ。

 交付金は事業主泣かせの面が多い。期間限定で24年度以降の見通しがない。だから定期昇給につなげにくい。対象がヘルパーだけで、看護職やケアマネジャー、事務職などが対象外なのも、「調整が難しい」と不評だった。


しかし、中には定期昇給を実現した事業所もある。鳥取県で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人「こうほうえん」では、看護職などの他職種も含め、正社員に月1万2千円の定期昇給を実施。パート職員には一時金を支給した。他職種の昇給分は法人の持ち出しだ。

 廣江(ひろえ)研理事長は「介護職だけ賃金を上げるなんて、理屈に合わないし、全体のバランスを欠く。時限措置だが、23年度までは賃金を上げ、次の年は下げたら、職員はやる気をなくす。定期昇格で、きちんとした年収につなげたい」と言う。

 しかし、定期昇給にすると、交付金がなくなっても賃下げはできない。廣江理事長は「先のことを考えると、心臓が止まりそうだ。一番いいのは、交付金分を介護報酬に入れてもらうこと。『報酬に入れたら、保険料が5千円を超す』といわれるが、そもそも5千円が上限だなんて、だれが言ったのか。民主党は『介護職の賃金を上げる』とマニフェストに書いたのに、そんな公約くらい守ってほしいよ」と、おさまらない様子だ。

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 ■全額を国庫負担か介護報酬にするか 500億~1900億円の財源は?

 5月半ば、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の介護給付費分科会で、処遇改善交付金をめぐり、激論が交わされた。

 特別養護老人ホームの施設長らの団体が「現行制度の維持を」と口火を切ると、利用者の団体が「現状の交付金制度を継続してほしい。介護報酬に組み入れることには賛成できない」と続いた。


しかし、現行制度は全額国庫負担。維持するには、年に約1900億円の国費がかかる。来年度の財源のあてはなく、政治決断の見通しもない。

 分科会で、学者らは介護報酬に組み入れるよう強く主張した。田中滋慶応大学教授は「介護職の賃金は、交付金という臨時的なものでやるより、介護報酬という自分の世界で、高齢者や現役世代の保険料も含めて、きちんと対応しないとおかしい。外側にもう一つ、特別なもので助けてくれというのは、世の中のさまざまな財源との取り合いになるだけです」とした。

 交付金を介護報酬に入れても課題はある。65歳以上の保険料は月平均で約100円上がる。さらに、国費として必要な約500億円のあても今はない。

 6月半ば、介護保険法の改正案が成立した。法改正には、約500億円の国費が捻出できる唯一の施策「総報酬割」は盛り込まれなかった。

 「総報酬割」は、現役会社員の介護保険料の負担を、企業の体力に応じて割り振る仕組み。介護保険部会でも検討されたが、負担増を嫌う民主党の反発もあって見送られた。それが5月、再び政府・与党の集中検討会議の改革案に登場した。いったん見送られた案が、今度は実現するのか-。来年の行方が分からないことに、現場は不安を募らせている。


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