読書は基礎トレーニング | えほんや通信

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名作童話の電子出版「えほんや」の編集長・原 真喜夫のブログ。こどもの本と教材、雑誌、実用書の編集を手がける編集プロダクション・スキップの代表取締役。アロマテラピーにも目覚める。村上春樹、マーヴィンゲイ、寿司と焼き鳥、日本酒とワイン。

本を読めなくなったこともあった
社会人になって1年と数ヶ月たったころ、
書店に入るのが怖くなった時期がありました 汗

書店で買い手を待っている、膨大な数の書物が、

企画→原稿依頼→執筆→デザイン→写植→版下
(まだアナログの時代だったので)→校正→
そして、製版→印刷→製本→配本、
という長い過程を経て、書店の棚まで来ているのかと思うと、
めまいがしてきそうだったのです くるくる

自分が手掛けた本の数が、二桁になるころには
その目まいも良くなり、
書店に、また足しげく通えるようになったけれど…

ところが、今度は、それまで大好きだった
「小説」が読めなくなったのです。

中学のころにフランソワーズ・サガンとレーモン・ラディゲを愛し、
高校では三島に目覚め、大学では仏文専攻の、純・文学系だったのに…
(算数の編集が長いので、理系出身と思っている方もよく
 いらっしゃいますが、バリバリの文系出身です)

社会人としてスケジュールに追われるようになると、
小説の世界の中に入っていく、頭脳の中のスイッチの
切り替えが、うまくできなくなったのだと、
後から振り返ると、わかることですが…ありゃりゃ

小説に変わって、ビジネス書やハウツー本を
たくさん読むようになるわけだな。
お手軽な解決策を見いだしたくて…。

小説の世界に復活できたのは30代から、
それも、学生時代はあまり好まなかった、
ミステリー系のベストセラーを読み始めてからのこと。
今では「このミス」も愛読書となっています。

自分の快楽のための読書、仕事のための読書
たとえば、村上春樹氏の作品を読むのは、僕にとって
完全に快楽のための読書
活字を追い、その作品世界の中に入り込んでいくのが
快感なので、できるだけ、最後のページにたどり着くのが
遅い方がいい。
なるべく長く味わっていたい瞬間です。
 ねこ・まったり ねこ・まったり ねこ・まったり

それに対して、電子書籍に関する本を読むのは、当然
仕事のための読書
内容を自分のものにするために、できるだけ早く
読み進みたい
 RUNNER RUNNER RUNNER

その両極の間に、すべての書物は置かれているわけです。

いずれにせよ、毎日本を開くこと
では、快楽のための読書から、
仕事のヒントが得られないかといったら、そんなことはない。
むしろ、まったく関係ない視点、新たな発想
自分に与えてくれるのは、そんな本であることが多い。

読み終えた後に、世界の見え方が
少しでも変わったように思えるのが良い書物だと思う
 

マンガもしかり。
ビジネス書でも、良いものは自分の世界観を変えてくれる。
料理の本など実用書でも、もちろん童話でも同じこと。

鞄には文庫本を(あ、新書でも、単行本でも、可)
毎日、読むことを日課にしよう。
体力とポテンシャルで突っ走れるのは20代まで。
インプットをしていかないと、
 頭はどんどん錆びついてしまう。


映画も展覧会も、友だちと話すことも
良いインプットだよね。
でも、編集者にとっては、
読書こそが、まちがいなく、最良のインプット。

30代になったからこそ
わかる文脈もある。
40代になって読み直して
見えてくる風景もある。

読まないと、どんどん「読む能力」が落ちてしまうよ。
ピッチャーにとっての球速、バッターにとっての打率、
それは、編集者としては「読みとる力」だと思う。

自分が字や絵を集めて編んで、世に出すのだから。
「読む力」は編集者としての、まさしく基礎能力だ。

読書は編集者の基礎トレーニング。
 毎日欠かさず本を読め。
  日本語を鍛えよう。