本件は、死亡保険金について、保険金受取人の指定がないときは相続人に支払う旨の約款があった場合に、当該保険金が相続人の固有財産となるかどうかが争われたものです(志望した被保険者であり、被相続人の債権者が、保険金請求権が相続人の固有財産ではなく相続財産であるとして、限定承認に際して当該保険金請求権を目録に記載しなかった相続人の責任を追求したという事案)。

 

 

裁判所(最高裁昭和48年9月29日判決)は、次のとおり判示して、債権者の主張を退けています。

 

 

【判旨】

保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う。」旨の条項は、被保険者が死亡した場合において、保険金請求権の帰属を明確にするため、被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解するのが相当であり、保険金受取人を相続人と指定したのとなんら異なるところがないというべきである。

 

 

なお、受取人を指定した保険金請求権が相続人の固有の財産であることについては、以下のとおり、最高裁昭和40年2月2日判決以来の判例の立場です。「相続人」と指定していたか記載はなく約款で決まっていた場合とで違いがあるかどうかに付き、その違いはないとしたのが本件判例であると言えます。

・本件養老保険契約において保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であつて、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない、そして右の如く保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。然らば、他に特段の事情の認められない本件において、右と同様の見解の下に、本件保険請求権が右相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない旨判示した原判決の判断は、正当としてこれを肯認し得る。