最高裁平成5年9月24日判決(判例時報 1500号157頁)の事案です。

 

 

代々認められていた通路(本件通路)を経由して私道が通っているものの建築基準法上の道路とは認められない袋地に建てられていた旧建物(下水は汲み取り式であった)を取り壊して,行政の命令を無視して違法に新建物を建築する際、下水管を建物が立つ袋地から本件通路部分を経由して私道にまで敷設し、そこに埋設されている下水管に接続して排水を図ろうと考え、本件通路所有者との協議が調わないまま、本件通路部分に下水管を敷設する工事を開始しようとしたものの,本件通路所有者がこれを拒絶したため係争となったというものです。

 

 

本件通路部分への下水管の施設を肯定した原審に対し,最高裁は次のとおり説示して,これを否定しました。

・建物の汚水を公共下水道に流入させるには、下水管を本件通路部分を経て本件私道にまで敷設し、そこに埋設されている下水管に接続するのが最も損害の少ない方法であると見られるので、被上告人(建物所有者)が上告人(本件通路所有者)の所有する本件通路部分に下水管を敷設する必要があることは否めない。
・しかし、本件建物は、被上告人が建築確認を受けることなく、しかも特定行政庁の工事の施行の停止命令を無視して建築した建築基準法に違反する建物であるというのであるから、本件建物が除却命令の対象となることは明らかである。このような場合には、本件建物につき、被上告人において右の違法状態を解消させ、確定的に本件建物が除却命令の対象とならなくなったなど、本件建物が今後も存続し得る事情を明らかにしない限り、被上告人が上告人に対し、下水道法一一条一項、三項の規定に基づき本件通路部分に下水管を敷設することについて受忍を求めることは、権利の濫用に当たるものというべきである。ところが、被上告人は、本件訴訟提起の前後を通じ、右の事情を何ら明らかにしていない。
・そうとすると、本件建物が今後も存続することができることが明らかでない段階における本件請求は、権利の濫用として許されないというべきである。