判例時報2298号で紹介されていた事例です(東京高裁平成27年5月19日決定・東京高裁平成27年12月10日決定)。

 

刑事訴訟法第94条  保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
○2  裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
○3  裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
 

 

保釈が認められた場合、決められた保証金を現金やオンライン納付によって即日納付して保釈してもらうというのが通常の流れです。

 

 

ただ、現金に代えて、第三者が保証書を差し出すことでこれに代えることも裁判所の許可があれば認められることになっています(刑訴法94条3項)。この保証書は、身柄引受書とは異なり、被告人が逃亡した場合には、保証金の支払いを求められるという、いわば連帯保証人のような立場に立つことを約束するものです。かつて、大規模経済事犯において、被告人の弁護人が保証書を差し出したところ被告人が国外逃亡してしまったという事案があったかと思います。

 

 

保証金を用立てられない被告人のために、一定の手数料を支払って保証金を貸してくれたり保証書を差し出してくれるというシステムがあり(アメリカでは一般的な仕組みで「バウンティハンター」といって逃亡した被告人を捕まえるための職業もあることで有名です。)、日本では、かつては保釈保証協会という民間の会社が行う保証金の貸付のみでしたが、現在では、弁護士会の協同組合(全国弁護士協同組合・全弁協)が同じような業務(但し保証金の貸付ではなく保証書の差出)を行うようになっています。保釈保証協会、全弁協とも、利用申し込みをしたことはありますが、いずれも、手数料さえ支払えば誰にでも保証金を貸してくれる,保証書を発行してくれる,というわけではなく、審査があり、被告人や家族の収入などを審査され、蹴られたという経験があり、営利企業である保証協会の方はともかく、全弁協のほうについては「資力がない被告人にも保釈が利用できるように」というにしては看板倒れじゃん、と思ってことはあります(以前のことですので現在の運用は知りません)。

 

 

本件は、いったんは現金納付による保釈が認められたものの、その後、保証金の一部について全弁協による保証書を差し出すことで保証金に代える決定を得たところ、検察官から抗告があり、一件は取消(全額現金納付すべし)となり、一件は抗告棄却(保証書による代替が認められた)というものです。

 

 

そもそも、保釈に当たって保証金の納付が要求されるのは、逃亡するとそのお金を取られてしまうことで経済的打撃となり逃亡しにくくするという効果を期待したものですが、他人の金(第三者の保証)であれば自分の懐が痛むわけではないので、そのような効果が期待しにくくなるのではないか、本件のようにいったんは現金で納付するよう決定されたのに後になって第三者による保証に代えるというのではこれを認めるだけの事情が必要なのではないかというのが問題の所在です。

 

 

保証書によるという方法が取り消されてしまった件については、薬物の営利譲渡を含む多数の薬物事犯の案件で、500万円の保証金のうち300万円を全弁協の保証書で代えるというものでしたが、もともと事案自体が保釈が付けられるかどうか微妙なで、実刑も想定される案件であり、最初の保釈決定では被告人やその家族が保証金を入れるという前提で認められていたのを、特段の事情の変更もなく、保証書に代えるというのは、被告人の出頭確保等のために定められた保証金の機能を著しく損なうとして、保証書による納付方法は認められませんでした。

 

 

保証書による納付が認められた方の件は、複数の侵入窃盗の事案でしたが、全弁協に保証を委託したのは被告人ではなく、情状証人として出頭した被告人の雇用主であるという事情があったことから、被告人からすれば雇用主からお金を借りて保証金に宛てたのと同様に評価でき、雇用主に迷惑はかけられないということで逃亡はできないという心理的威嚇効果が期待できる、として保証書による方法が認められました。

 

 

 

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