判例時報2270号などで紹介された事例です(東京高裁平成27年4月8日決定)。



相続が発生し,法定相続人がいない場合,遺産は国庫に帰属するということになりますが,その前段階として,法定相続人ではないが被相続人と特別の縁故にあった者(特別縁故者)からの請求があるときは家裁は特別縁故者に対し遺産の分与を認めることがあります。



第958条の3  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。



本件は,歯科医であった女性と長年内縁関係にあったと主張するAが特別縁故者として財産の分与を主張したのに対し,家庭裁判所が,Aは遺言を偽造して遺産を不法に奪取しようとしたのであるから,特別縁故者に当たらないとしてその申立を却下したのに対し,Aが高裁に抗告しましたが,高裁も同様の判断をしたというものです。



本件では,特別縁故者による財産分与の申立に先立って,相続人がいない場合に選任される相続財産管理人(弁護士)が原告となり,Aを被告として遺言無効の確認請求がされており,その判決において,自筆証書遺言の筆跡はAのものである可能性が高いという筆跡鑑定などから,遺言を無効とする判決が下されていました。



Aは遺言が無効とされてしまったことから,今度は特別縁故者制度を使って少しでも遺産を手にしたい,ということを考えたわけです。



なお,特別縁故者の財産分与の申立があると,相続財産管理人に対して家裁からの意見照会があるので,今回の相続財産管理人としては当然ながら不可意見を上申したものと思われます。




そして,家裁,高裁ともに,遺言を偽造したような者は特別縁故者としては認められないということになりました。



本件では被相続人である女性は平成17年に亡くなり,相続財産管理人が選任されたのは平成20年のことのようです。

誰が相続財産管理人の選任申立をしたのかは分かりませんが,女性の遺産としては銀行預金があったようであり,女性の死亡後,相続財産管理人が選任されるまでの間にAが偽造した遺言の検認を済ませて,銀行で手続すれば,銀行としては預金をAに払い戻していたかもしれません。そうすると,そもそも遺産について利害関係をもつ相続人がいないので,誰もAの預金引出しについて異議を唱える者もおらず,そのままになっていたということも考えられます。




弁護士をしていると遺言の偽造などというのはどこにでも転がっていることはよく知っており,相続人がいないケースで闇から闇ということにならないように,今回のケースはAの企みを阻止できたわけですが,制度として何か手立てがないものかといつも思います。




本件は確定しているということです。




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