判例時報2198号で紹介された事例です(東京高裁平成24年11月29日判決)。




弁護士に対する懲戒処分は,所属弁護士会が行い,不服があれば,日弁連の懲戒委員会がさらに審査議決するということになっていますが,懲戒処分を受けて弁護士は,さらに不服があれば裁判所(高裁)に処分の取り消しを求めて,訴訟提起ができるとされています。






もっとも,裁判所が弁護士会の懲戒処分を覆すようなことはめったになく,重要な事実関係について全く基礎を欠くとか,処分が社会通念上著しく妥当性を欠くなどの例外的な場合のみ違法として取り消されると考えられています(判例)。

本件は,いわば,馴れ合い訴訟のような訴訟を提起したということから,弁護士が業務停止1か月の懲戒処分を受けたといいう事案です。



これは,フィリピン人の女性Aが日本人Bと結婚し,婚姻期間中に子どもCができたが,その後離婚し,Cは父親であるBの戸籍に入っていたところ,Aが入管当局に対して日本人であるCの母親として在留特別許可を求めていたものの,入管当局は,AとBの婚姻を偽装であり、CはBの子ではないのではないかと疑い,CをBの戸籍から抜くようにAに対して求めてきたことから,Aが弁護士に相談したという経緯でした。




弁護士は,BからCに対して親子関係不存在の確認訴訟を提起してもらい,わざと負けてもらうことによって,裁判所から却下判決をもらい,そのことで逆にAとCの親子関係が確定されるという方法を教示しました。言ってみれば馴れ合い訴訟です。そして,たのためにはBに協力を求めなければなりませんが,弁護士がBと会ったうえで協力を取り付け(ただ,ここでのやり取りでBが偽装結婚を告白したのかどうかについては争いがあります),弁護士はBのためにその名義で訴状を作ってやり,自分はCの代理人として訴訟活動を行い,Bは裁判所から出頭するよう促されたものの出席することなく訴訟は終了し,目論見通り,却下判決となりました。



そこで,弁護士は,Aのために判決結果を入管に送付して,めでたくAは日本人Cの母親として確定した立場を入手する・・となる筈でしたが,不審を抱いた入管がBに対して経緯を問いただすなどしたことから,Bは入管に対して「Aとの結婚は偽装だった。自分はCを自分の戸籍から抜けるのならと思って協力した,弁護士と会ったときもAとの偽装結婚のことは伝えた。」などと述べたことから,怒った入管が弁護士に対する懲戒請求をしたのでした。




事実としてはAとBの婚姻は偽装であったようなのですが,所属弁護士会は,当該弁護士はこのことは知らなかったと認定しています。




しかし,BはCのことをかわいがっていたこともあり,特にCを戸籍から抜くことを積極的に希望していたわけではなかったのに,上記のようなBの希望に反する結論(BとCとの親子不存在確認)を求める馴れ合い訴訟を起こしたことが問題だとして,所属弁護士会は,弁護士が偽装結婚であるということまでは知らなかったとしても,懲戒が相当だと判断しました。




弁護士からの不服申し立てを受けた日弁連では,事実認定をひっくり返して,Bが入管で話したように,弁護士はBから偽装結婚のことを聞いており,Bが戸籍からCを抜きたいと希望していたのに,Aのために却下判決を得て,BとCの親子関係を確定させたと認定したうえで(なお,後にBとCは改めて家裁の調停手続を取って親子関係不存在ということになっているとのことです),所属弁護士会の懲戒処分は相当としました。



裁判所は日弁連が認定した基礎となっている事実,つまり,弁護士がABの偽装結婚を知っていたこと,BがCを戸籍から抜きたいと思っていたということについて,認定の誤りがあるとして,懲戒処分の基礎となった事実関係に誤りがあるという理由で,日弁連の懲戒処分を取り消しました。



Bが本当にCを戸籍から抜きたいと思っていたというのなら,弁護士が作成した親子関係不存在確認の訴状を提出した後に家裁から「このままでは親子関係が確定してしまいますから出席してください」と促されたのに出頭しなかったというのはおかしいというようなことが理由となっています。

なお,Bが入管で弁護士に対して偽装結婚のことを話したということについては,入管からの呼出しなどがあり,「面倒なことに巻き込みやがって」というようなことで頭にきていたというBの証言もあり,信用できないということになりました。



そうすると,もともと所属弁護士会が下した,偽装結婚であるとは知らなかったとしても懲戒処分が相当であるということについてはどうなるのかということですが,裁判所は,その点については弁護士の業務上問題があるとは考えるものの,その点についてまで司法審査することに踏み込むことは妥当ではないとしています。



日弁連が余計な事実認定をしたことで救われたともいえるでしょうか。



本件は確定しているとのことです。




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