最高裁平成24年4月27日の判決です(判例タイムズ1376号)。労働事件は昔から,企業名を冠した事件の通称名が付けられることが多いのですが,何か理由があるのでしょうか。




本件は,入社から7年半程度経過した従業員が(この期間は特に問題なく勤務していたということです),被害妄想のようなものに取りつかれたことから精神疾患をきたし,出社しなくなってしまい,有給休暇を消化した後も約40日間欠勤を続けたことから,会社側が諭旨解雇処分としたところ,従業員が不服として地位確認やバックペイを求めて訴えたというものです。




従業員は「メイド喫茶のウェイトレスとのトラブルがきっかけで,加害者集団が雇った者たちが日常生活を監視している」「盗撮などされた情報は加害者集団によってネットの掲示板やメーリングリストなどで共有されている」「加害者集団は,『だから,空気に魔法はつうじねーんだよ』『泣いてやんのー』など,従業員に対して嫌がらせを行っている」などの被害観念を抱くようになってしまいましたが,これらの従業員が訴える被害事実については,一審,二審とも認められないと判断しています。





そして,ある日上司に対して「ストーカーの件でいい加減頭にきたので警察に行ってきます。しばらく有給とって休みます」とメールを送ったまま出社しなくなってしまいました。




有給期間が残り少なくなってきた頃,従業員は,休職の特例を使えないか会社に相談しましたが,許可できないとの回答を受けます。




従業員は,労務担当部長に対して,被害事実について改めて電話で相談し,休職の特例を認めるように求めましたが,会社側は,被害事実は認められず,出勤しないことに正当な理由はなく,このままでは欠勤となることを伝えました。休職の手続についての教示はしませんでした。




そして,欠勤日数が40日近くなった頃,会社は「欠勤に正当な理由はない。出社を命じます」というメールを送りましたが,結局,出社することがなかったため,諭旨解雇処分となったという経緯です。




一審は,会社側の諭旨解雇処分を社会的に相当な範囲にとどまるとして有効としましたが,二審は,従業員の欠勤は精神的な障がいによるものであって,就業規則上の傷病その他やむを得ない事由によるものと認められ,無断欠勤ではないという理由で,諭旨解雇処分を無効としました。





最高裁も,次のように述べて,諭旨解雇処分を無効とし,従業員側の勝訴となりました。

「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから,使用者(会社)としては,その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上,精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば,会社の就業規則には,必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。),その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり,このような対応を採ることなく,従業員の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。

そうすると,以上のような事情の下においては,従業員の上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解さざるを得ず,上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた本件処分は,就業規則所定の懲戒事由を欠き,無効であるというべきである」





最近,メンヘルといって,鬱などの精神疾患をもった従業員の労務管理ということが注目されていますので,実務的に重要な意義を持つ判例といえるでしょう。いきなり,解雇というのではなく,休職などの処置をワンクッション挟む必要があるということになると思います。





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