認知症と離婚原因

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高齢化社会に突入したわが国において,高齢の夫婦の一方が認知症となってしまうことは避けられませんが,そのような場合に,配偶者が認知症となったことを理由として離婚請求できるのかという問題があります。




民法770条1項4号では「配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき」には離婚原因となるものと規定しています。




アルツハイマーなどの認知症がこれに該当するのかということが問題となります。




確かに,認知症も精神上の障がいといえばそうかもしれませんが,統合失調症や躁うつ病などの精神障がいと比べると,これまで連れ添ってきた配偶者が認知症になったから別れるというのは,少し釈然としないところもあります。

もっとも,それまでしっかりした信頼関係をもって婚姻生活を営んできた夫婦については,相手が認知症になったから離婚請求するということは考えられませんから,現実的に多くのケースでは,「認知症になったから別れたい」というのではなく,「認知症になる前から別れたかった」というのが実相なのだろうかと思います。もっとも,「認知症になる前から別れたかった原因」というのが,しっかりと立証できるものであれば問題ありませんが,「結婚以来,実はずっと我慢していた」とかいうあやふやな根拠しかないものですと,離婚原因としての立証は失敗し,結局のところ「認知症を原因として離婚できるのか」という論点に帰することになります。




仮に,認知症が民法770条1項4号の「強度の精神病」に該当するとした場合には,古くからの判例の考え方で具体的方途論というものがあり,精神病にかかった相手方配偶者の今後の生活状況についてしっかりと手当がされていれば離婚請求を認めるという判例理論があります。




認知症が民法770条1項4号の「強度の精神病」に該当するのかという点については,あまりはっきりとした見解はなく,否定する見解もあるようで,実際に,4号該当性に疑問を呈した裁判例もあります(長野地裁平成2年9月17日判決)。




この長野地裁の裁判例は,昭和45年に結婚した昭和22年生まれの夫と昭和6年生まれの妻5の事案で2人の間に子どもはいませんでしたが,妻がアルツハイマー型の認知症になったことから,夫が家事全般のほか,妻のおむつの取り替え,入浴などの世話をするようになり,妻は,昭和59年頃には喜怒哀楽の表情が希薄になり,夫の問いかけに対しても夫の名前とか妻自身の生年月日程度のことを答えられる状態になつてしまったというものです。





妻は特養ホームに入所できましたが(民生委員が夫らの様子を見かねて尽力してくれた結果),既に自力ではべツドの上に起き上ることができず,スプーンを握ることはできても口に運ぶことができなくな,昭和62年秋頃には夫が妻の知り合いということはわかっても夫であることはわからなくなつてしまいました。



妻については,平成元年12月7日当時の禁治産宣告を受け,夫が後見人となり,長野の弁護士が平成元年12月27日に後見監督人に選任されています。このような場合,後見人たる夫からの離婚請求の相手方となる被告は後見監督人である弁護士ということになります。




このような事案で,長野地裁は,民法770条1項4号の「強度の精神病」という理由での離婚請求は認めませんでしたが,5号の「婚姻を継続しがたい重大の事由」に当たるとして夫からの離婚請求を認めました。




もっとも,その理由として,妻が特養ホームに入所し生活が安定していることや,夫が今後も妻に対する若干の援助を続けていくことを考えていることなど,本来4号で論じられてきた具体的方途論の考え方を5号においても判断の要素としています。




認知症の相手方配偶者の介護に疲れたから,後は知らんぷりで離婚したいということだとなかなか離婚が認められるということは難しそうです。








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