平成18年,福岡市の職員(当時)が飲酒運転して追突事故を起こし,追突された車両が川に転落し,1歳から4歳の子ども3人が亡くなったという事故の最高裁判決です(平成23年10月31日判決 判例時報2152号)。




この事故では,被告人による事故の原因が①単なるわき見であったのか,それとも,②飲酒の影響で正常な運転ができなくなっていたために起こったのかが争いとなりました。




①であるとすれば,業務上過失致死(刑法211条)となり,道交法の余罪を併せても当時の刑の最高上限は懲役7年6月でした。

②ということになれば,危険運転致死傷罪(刑法208条の2第1項)となり,この罪だけでも最高で懲役15年を科刑することができました。




飲酒運転して事故を起こしたからといってすぐに危険運転致死傷罪になるというわけではなく,その原因によって適用される法条が異なるというわけです。飲酒していたとしても正常に運転できる状態であったのであれば,危険運転致死傷罪は適用されず,あくまでも事故の原因がアルコールの影響によって正常な運転ができなかったのにも拘わらず運転し事故を起こした行為に対して強い責任非難がされるという構造になっています。




一審は,本件事故の原因は被告人のわき見であった可能性が否定できないとして危険運転致死傷罪の成立を認めず,被告人を懲役7年6月に処しましたが,控訴審では,事故の原因は飲酒の影響で正常な運転ができなかったことにあるとして同罪の成立を認めて,余罪と合わせて被告人を懲役20年としました。




最高裁も,危険運転致死傷罪の成立を認めましたが,理由付けは控訴審と少し異なっています。





控訴審は,事故が遭った現場道路は横断勾配といって何もせずに自動車を進行させると車が自然に左に寄ってしまうような構造になっていましたが,被告人はまっすぐに自動車を運転させて被害車両に追突させていたことから,「被告人は前を見ていた」→「わき見をしていなかった」→「前を見て運転していた以上,長時間(約8秒間)も自動車をまっすぐ運転していながら被害車両に気が付かなかったのはアルコールの影響であった」という論理を取りました。





しかし,最高裁は,横断勾配があり,かつ,わき見をしていたとしても,ハンドルを握ってさえいればある程度の運転は可能であるから,わき見をしていた可能性否定できないとして被告人に有利な可能性を考慮しました。




ただ,一審のようにすぐにわき見運転が事故の原因であったということは結論付けずに,仮にわき見をしていたとしても約8秒間もの長い間,特段の理由もなく前方の被害車両に気が付かないまま高速(時速約100キロメートル)で走行させたという被告人の行為は正常な運転者では考えられない異常な状態であったとして,その原因は飲酒による酩酊状態にあったとし,危険運転致死傷罪の成立を認めました。





ただ,本判決には,田原睦夫判事の反対意見が付いており,最高裁判事の中でも評価が分かれています。





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