4年生達は、名作『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる作・講談社)をどう読んだのか?
時折り、子供達の「作品評」を発信してゆきたいと思う。
先ずは、11月に4年クラスで扱ったこの作品だ。
初版は、1959年。
戦前の殻を破り、
戦後日本の創作児童文学が漸く産声をあげた時代だ。
それから半世紀余。
現代に生きる子供達は、
この作品をどのように受け止めたのだろうか・・・・・・・。
アイヌに伝わる「コロボックル伝説」は、
19世紀から20世紀にかけて、
その実在根拠が人類学会で論争になったという。
しかし、一般に知られている「コロボックル像」は、
佐藤さんの、このシリーズによるところが大きい。
佐藤さんは、この作品を書いた動機を、初版の「あとがき」で、こう語っている。
「人が、それぞれの心の中に持っている、小さな世界のことなのです。人は、だれでも心の中に、その人だけの世界を持っています。その世界は、他人が外からのぞいたくらいでは、もちろんわかりません。それは、その人だけのものだからです。そういう自分だけの世界を、正しく、明るく、しんぼうづよく育てていくことのとうとさを、わたしは書いてみたかったのです。」
そして作品では、二つのものが、この「小さな世界」を構成している。
一つは、主人公が子供の頃に見つけた、とがった小山の中にある「三角平地」だ。
「右がわが高いがけで、木がおおいかぶさっている。左はこんもりとした小山の斜面だ。
ぼくのはいってきたところには、背の高い杉林がある。
この三つにかこまれて、平地は三角の形をしていた。・・・(略)・・・
いずみの水は、あふれて杉林のほうへ流れだしていた。
ぼくはこの小山が気にいってしまった。」(本書p.11)
もう一つが、この「小山」の地下で、人間達から身を守りながら暮らしている小人族だ。
この小人族をどんなふうに設定するか・・・、佐藤さんは苦心された。
佐藤さんの苦心は、主人公の言葉として、そのまま作品の中で表現されている。
「小山」で見てしまった「小さな黒いかげ」(こぼしさま)の正体を調べている場面だ。
「小人の話は、もともと日本ではあまりきかないようだった。
一寸法師はだれでも知っているが、これはほんとうの小人とはちがう。・・・(略)・・・
ところが、しばらくたつと、ぼくは、とうとうすばらしい話を見つけだした。
日本にも、こぼしさまにそっくりな、小人族の話が、ちゃんとあったのだ。
北海道のアイヌがつたえているコロボックルの物語だった。」(本書p.51)
佐藤さんはさらに、日本神話に登場する「少彦名命(スクナヒコナノミコト)」は、「コロボックル」と同じ種族ではないかと推測する。
そして、その仮説をこの作品に適用する。
そのことが、作品に登場する「小人族」のリアリティを、ますます大きくしている。
11月の最終授業で、私は、10名の4年生達にこんなふうな課題を課し、考えてもらった。
半世紀も前の「ファンタジー」作品の価値を、
現代っ子達がどのように評価するのか知りたかったからでもある。
「この物語は、絶対にありえない話だから、読んでもあまり意味がない」
という意見があったとしたら、あなたは、その意見をどう考えますか?
活発な意見が交換された後は、いつものように記述でまとめる。
4年生達の意見は、2つに大別できる。
本当にありそうで、どんどん物語に入り込んでいく
これは、K1君の言葉だ。(^O^)/
Sさんも、「読んでいるうちに小人達に会ってみたいと思った!」と言う。(^-^)/
半数以上の子が、こうした感想を出してくれた。
更に、「自分は、どうしてそう思えたのか」まで語ってくれる。
さすがに、4年生だ。
先のK1君は、こう語る。
「アイヌ伝説が出てくるでしょ。
だから、北海道に行けば、もしかして本当に会えるんじゃないかって思っちゃうんだよ」
と。ヘ(゚∀゚*)ノ
多くの子が頷く。
すると、もう一人、女子のTさんはこんな発言をした。
「私は、この物語が、コロボックルの目線でなくて、主人公の目線(正確には、主人公の一人称:吉田註)で書かれているからだと思う。主人公になったみたいな感覚で、本当にコロボックルと出会った気持ちになってしまった」と。(b^-゜)
意見交換が進む中で、M君はこんなふうに、この作品を評価した。
「本当はいない筈のコロボックルの人達の気持ちまですごく良く分かってきたんだ。
会ったことのない人達の気持ちまで理解できるようになる。
だから、こういうファンタジーって、読む意味があると思うよ」(`・ω・´)ゞ
子供達の考えを聞いて、改めてこの作品の魅力を作りだしている「方法」に気づかされた。
コロボックル伝説を採り入れただけではない。
一人称という表現を採ったことで、読者と「小人達」の距離がなくなったのだ、と。
文字通り、子供達に教えてもらった。
主人公とコロボックルの関わり方が・・・・・
国語の授業では1回も発言したことのなかったMさんが、初めて口を開いた。
「ちょっとだけでも良いの?・・・あのね、主人公とコロボックルの・・・・・ん~、関わり方・・・それでね、協力して道路の工事を止めたでしょ。そこんとこの関わり方・・・」(*゚.゚)ゞ
精一杯の気持ちを絞り出しているようだった。
この子は、書くことは好きだが、人前では発言しない。
その子の心を、この作品が揺さぶったのだ。
私は、こみ上げるものを押さえるのに必死だった。
すると、多弁ではないK2君も、ぼそぼそと話し出した。
「コロボックルと・・・、それを守ってあげた主人公が・・・・・・、ん~ん、信頼し合うっていうか・・・力を合わせて難しいところを乗り切ったでしょ。
それが大切なことだと思った」\(^_^)/
先に発言したTさんは、こう語った。
「主人公にとって、最初は不思議なくらいにしか思ってなかった『小山』だったのに、
コロボックルとの関わりが深くなってくると、弱い性格の主人公だったのに、
コロボックルを守るために道路工事を止めよう、って変わっていくでしょ。
そういうところが、いいなあって思った」
佐藤さとるさんへ
子供達はあなたの書きたかったことをしっかり受け止めているようです。
今の子供達を取り囲む状況は、とっても大変ですが、
でも子供達は、あなたの作品に触れて、
また一つ、人が生きる上で大切なことに感じ入り、
それを自分にしかできない言葉で表現してくれました。
私たち大人の責任はとっても大きいのですが、
こんな子供達に触れると、
私の中にも、勇気と言おうか、気概と言おうか、そんな感情が湧いてきます。
子供達に、素敵なファンタジーを本当に有難うございます。
心より、感謝しております。
よしだ教室 吉田雅人
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