吉本隆明 語る ~沈黙から芸術まで~ | 編集機関EditorialEngineの和風良哲的ネタ帖:ProScriptForEditorialWorks

予定の時間を過ぎていることに気づかず語り続ける吉本隆明さんは、終盤には天を仰ぐような姿勢になって言葉を紡ぎ出していく。

編集機関EditorialEngineのシンプルマップ的ネタ帖:ProScriptForEditorialWorks-吉本隆明ラスト・ダンス
NHK ETV特集「吉本隆明 語る ~沈黙から芸術まで」2009年放送分を昨日再放送

「沈黙」という語は、あらためて確認してみないと断言できないが、その主著では鍵語としては使われていないし、「芸術言語論」という主題も著作では使われていないはずだ。もちろん主旨に変わりがあるわけではない。

講演時に、広く伝わりやすいものにすべく、講演用に自ら案出した編集の効果(modification)だったのだろうと思う。

僕にとって、この忘れかけていた映像が貴重なのは、「共同幻想」に相渉るとき、また共同幻想から相渉られるとき、そこで作用・反作用の力を蓄えているのも言語である、という示唆を与えてくれる点だ。いやそのように、著作以上に明言してくれていると思える箇所があることだ。おそらくは言語の持つ「指示表出」性のほうが大きな機能を果たすだろうが、そう一筋縄ですますわけにもいかない困難が待っている。

ここに和辻哲郎が『日本倫理思想史』で指摘する「罪」の概念を接続すれば、司馬遼太郎が昭和の戦争について言った「魔法の森」の謎を解くことができるのかもしれない。もちろん一筋縄ではいかない。

さらに、「終わってしまう前におわらせたい」 ものの一つに、おそらく19世紀ヨーロッパに生い立ち、やがてアジア日本を含む世界中に蔓延することになる「ファンクショナリズム(機能主義)」があることも教えてくれる。

同時にこれを乗り越えようとすれば、それは「老人」の存在論にもつながるものであると、老吉本のラスト・ダンスが指し示していると思えてならない。



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あらためて氏の冥福をお祈りします。

合掌