乃木坂46が育てた独自のアンダー制度 意義と課題 | 欠伸芝(AKB48、DD宣言中→みーおんこと向井地美音推し)のブログ
リアルサウンド より


乃木坂46のアンダーライブは継続すべきーークリスマスライブに見た“修練の場”としての意義



 12月12日に東京・有明コロシアムで開催された乃木坂46の『アンダーライブ セカンド・シーズン Final!~Merry X'mas “イヴ”Show 2014~』は、そのタイトルに冠された通り、10月に行なわれていたアンダーライブ第二期の集大成として位置づけられたものである。また、乃木坂46全体でのライブ『Merry X'mas Show 2014』の前日に催されていることから、必然的に本体ライブの露払い的な意味合いもこのライブには含まれることになった。しかし、アンダーライブと選抜メンバーを含めた本体ライブとが同会場で連続して行なわれることで明確になったのは、アンダーライブを経てきたメンバーたちの手によって、「選抜」「アンダー」という言葉の意味が大きく変えられたということだ。

 よく言われるように乃木坂46の弱点はAKB48グループに比べて、というより今日のグループアイドル全般に比べて、ライブの場数が圧倒的に少ないことにある。順調に獲得してきた人気や知名度によって、節目のライブが行われる会場の規模は拡大している。しかしその世間への浸透の間に、ライブの経験値を重ねる機会は適切に与えられてこなかったのが実情だった。これは乃木坂46というグループの、48グループとは一線を画したコンセプトを遂行した結果でもあるが、ともかくもこの知名度の大きさとライブへの対応力とのギャップは、ここまで常に抱えているウィークポイントになっていた。

 アンダーライブは今年、そんな乃木坂46の課題を埋める役割を果たしてきた。春に8thシングル『気づいたら片想い』の購入特典としてアンダーライブ開催が決まった時にはまだ、この企画に現在のような意義を見出すことは難しかっただろう。引き続いて9thシングル『夏のFree&Easy』のアンダーメンバーによって行なわれたライブが彼女たちに自信をもたらし、そのひとつの達成点が8月の「真夏の全国ツアー2014」で見せたアンダーライブ経験者たちの躍動だった。それらの蓄積を経て、アンダーライブのセカンド・シーズンとして10月に連日行なわれた公演は、アンダーメンバーおよび研究生たちの位置付けを決定的に変えるものになった。

 アンダーライブ自体、当初は光の当たることの少ない非選抜メンバーの活動の場として企画されたものだったはずだ。つまりそこには、選抜仕事の代わりに与えられた活動という意味が強く含まれていた。しかし連日のライブは、むしろ選抜に入ってしまえば経験することのできない、ライブパフォーマンスの修練の場としてアンダーメンバーを磨いた。彼女たちは選抜常連メンバーのような有名性こそ持たないかもしれないが、ライブでの爆発力は選抜メンバーを凌駕するに至り、アンダーライブ経験者にしか持ち得ない武器を手にした。「選抜」「アンダー」という言葉が通常含んでいる“上と下”の意味合いは薄れ、乃木坂46の「アンダー」とは、選抜と性格の異なる、ライブグループとしての意味を強く持つようになったのだ。それを証明したのが、この日のセカンド・シーズンファイナル公演だった。

 このライブの目玉企画、メンバー全員が一曲ずつセンターポジションを務める「全員センター」で、アンダーメンバーの成長ぶりはより際立った。樋口日奈センターによる「ぐるぐるカーテン」から始まり、企画最終盤の研究生・鈴木絢音センター「そんなバカな・・・」、佐々木琴子センターの「ガールズルール」に至るまで、誰がセンターをとってもそのポジションを引き受ける準備ができているように見える。連日のライブで培ってきた経験は、グループ内の立場にかかわらず、ライブという場で堂々と主役を競う姿勢を植えつけた。気づけば、二期生が入っておよそ一年の間、大きな課題だった一期生との壁もアンダーライブでは薄くなっていたように思う。まだ正規メンバーとされていない二期研究生さえ、受け持ちの曲ではセンターを当たり前にこなしている。これまで不完全燃焼の扱いを受けてきた研究生が、正規メンバーと分け隔てなく全員センター企画に参加したことの意義は大きい。満足にアピールする場もなかった彼女たちが正規メンバーを、ともすれば選抜メンバーさえも喰ってしまうためのチャンスがようやく開けたのだから。

 乃木坂46全体のライブでは選抜常連組の陰に隠れてしまうメンバーのポテンシャルに、スポットが当たる。この機会はグループ全員にモチベーションと焦りを与えうるものだし、そうあってほしいと思う。たとえば、川村真洋。グループ内で誰よりもキレのある動きを見せながらも、その力量を示す場に恵まれてこなかった。この日、川村がセンターに立った「音が出ないギター」は、彼女のパフォーマンスに似つかわしいクールな仕上がりになったが、それ以上に彼女の利点はどの楽曲、どのポジションにいようとも、細やかに己の技量を発揮しきるところにある。ライブ序盤で披露されたグループの代表曲のひとつ「制服のマネキン」では、三列目ながら最も目をひくアクトを見せていた。川村はこれまでのアンダーライブで「制服のマネキン」のセンターも務めているが、彼女が中心に据えられると、同曲はまったくイメージを一新してしまう。アンダーライブが固有の意義を強く持った今だからこそ、グループ全体のライブで彼女を中心に置くことが乃木坂46のライブを一歩先の局面に導くのではないか。そんな想像も容易に浮かぶ。

 そしてアンダーライブの中核には、井上小百合や伊藤万理華、齋藤飛鳥、さらには中元日芽香らが立つ。2014年のアンダーメンバー躍進の象徴でもある伊藤をはじめとして、彼女たちにはチームの中心に立つ人物としての風格さえ備わってきた。その中でも特筆すべきは、井上小百合だろう。乃木坂46のデビュー時から選抜常連としてポジションを築いた井上だが、この一年はアンダーで過ごすことも多く不安定な立場にいた。これまでの乃木坂46ならば、そこで新たに活路を見出すことは難しかったに違いない。しかし、セカンド・シーズンでアンダーの中心に立った彼女は、ライブグループとしてのアンダーメンバーを先導し続けた。この日のファイナル公演では、原則としてセンターに立ちつつ、全員センター企画では曲目に応じて様々なポジションを手広く担当した。選抜常連を経たのちにアンダーライブの中心となった彼女はこのライブでただ一人、センターを務めながら同時にグループの背骨として全体を見渡す場所に立っているようだった。これもまた、「アンダー」が「控え」を意味する言葉ではなく、選抜組とは性格を異にするライブグループとしての色合いを濃く持つようになったことで実現した景色だろう。

 アンコール後のMCではメンバーの口から、今後のアンダーライブがどうなるのか、まだ不透明であることが語られた。仮にアンダーライブが今年限りの現象になってしまうのだとすればそれはあまりに惜しい。来年1月24日開催の「LIVE EXPO TOKYO 2015 ALL LIVE NIPPON VOL.3」に、乃木坂46アンダーメンバーでライブ出演することは決まっているが、それ以降アンダーメンバー単位の活動が長期継続的なものになるのかはまだわからない。選抜メンバーの多くが固定されている乃木坂46にあって、選抜かどうかにかかわらず活路を見出し自信を深める場を築いたのだから、継続させることにこそ意味があるはずだ。また、このアンダーライブの成果によるレベルの底上げで、乃木坂46というグループはようやく対外試合に打って出るための準備を整えたに過ぎない。ライブの連続によって自信を得たアンダーメンバーにしても、今日のアイドルグループとしてはまだまだライブ経験の浅い部類に入る。その意味でも、来年以降にアンダーライブが発展的に継続されることを願う。

 ここまでアンダーライブを通じた達成にクローズアップしてきたが、選抜常連メンバーだからこそ見える景色もまた、当然ある。生駒里奈は常々、「外」の世界を見ることの必要性を言動であらわし、また「外」の世界をグループ内で最も知る兼任メンバーの松井玲奈はライブでもTVバラエティなどでも、自身のパフォーマンスによって乃木坂46メンバーの覚醒を促すよう立ち回っている。「芸能界」という広い場に乃木坂46を適切に位置づける俯瞰した視野は、選抜メンバーがくぐってきた経験によってこそ得られるものだろう。アンダーライブファイナルの翌日、翌々日に行なわれた乃木坂46全体のライブで見せた松井の身のこなしや振る舞いは、やはり他のメンバーとはキャリアも視野も明らかに別のレベルにいた。「外」に目を向ける彼女たちの広い視野と、アンダーを中心としたライブの底上げとがうまく接続されるならば、乃木坂46のパフォーマンスは次のレベルに進むはずだ。そのことを考えれば、「選抜=マスメディア」「アンダー=ライブ」というように得意分野がはっきり分断されてしまうことは、必ずしも健全とはいえない。両者の足並みが揃い、双方の往還が活発になった時、グループ総体としての充実度は大きく増すのだろう。

香月孝史