猫の後ろ姿 1504 病中に読む3 内田百閒『ノラや』 | 「猫の後ろ姿」

猫の後ろ姿 1504 病中に読む3 内田百閒『ノラや』



 ちくま文庫・内田百閒集成9『ノラや』。
 ノラが失踪して、その姿を想うたびに涙する内田百閒の心の悲しみがこちらにも伝わってきて、またしても読む途中でこちらも涙するという実に滑稽かつ真率な文章です。

 今回は、百閒の奥さんのノラへの思いの深さに改めて気がついた。
 「『いい子だ、いい子だ、ノラちゃんは』
  少し節をつけてそんな事を云いながら、お勝手から廊下の方へ歩き廻り、間堺(まざかい)の襖を開けて、「はい、今日は」と云いながら猫の顔を私の方へ向ける。」
 百閒という不思議な人物をこの世につなぎとめたこのひとりの女性はとても魅力的だ。

 稲葉真弓さんの言葉を借りるならば、「忘れえないものに捧げた」美しい挽歌と言うべきこの本、「忘れえないもの」を心にもつすべて人に読んでほしいと思います。