ヒトが誕生して200万年も脳を使ってきたので、私たちのあらゆる活動に深く脳が関わっています。その脳を生きたまま調べられる方法が見つかったのはごく最近で、その成果が次々と明らかになってきています。
子育てというのも人が未成熟な状態で生まれてきて、脳を発達させる過程を助けるものという視点を持つことができます。そうした観点から現代の子育てを見直す必要があるように感じています。
完成した状態で誕生すれば、すぐに活動を開始できて生き残る確率は高くなります。けれども環境がそれまでと大きく変化していると、新しい環境に適応できずに絶滅する惧れがあります。おそらく人は環境への適応を進化上の武器として、未成熟な状態での誕生というリスクをとったのでしょう。
赤ちゃんは環境に働きかけてその結果を確かめて行動を再調整することで、環境に適応していきます。だとすればあらかじめ快適な人工的環境が用意されていて、その中でだけ暮らしていると適応の範囲が狭まってしまいます。
実際のことろ脳科学でも、使われないネットワークは活性化されなくなることが知られています。猫を使った視覚の研究で、子猫の時にに特定の視覚刺激のみ与えられて、それ以外は暗闇で育てられた猫は子猫の時に与えられた視覚刺激にしか反応しないということです。
脳のネットワークをできるだけたくさん張り巡らせて有効化するためには、多様な体験をすることが重要です。暑さ寒さもそうですし、味覚や嗅覚もそうです。まずは五感全てにできるだけ多くの刺激に触れることが、感受性を豊かにするというのは、科学的にも理にかなってるわけです。
物だけでなく人に対しても同じでしょうね。できるだけたくさんの人に接すること。幅広い年齢層の人と。対人関係を気づく基礎となるような気がします。
子どもになぜ遊びが重要なのかということも、環境を学習するのに必要だからと考えればすんなり納得がいきます。大人から見たらいたずらに見えることが、子どもには学習として重要なのですね。
大人はつい当たり前のこと、当たり前のものとして見過ごしてしまうことが、彼ら子どもにとっては珍しいもので毎日が発見の連続なのです。だから「これは後でね」というのは、二度とない機会を奪ってしまうことにもつながりかねません。子どもの発達を邪魔しない大人にならなくては。
脳科学と教育の分野を結びつけた研究が花を開く時代がすぐそこまでやってきています。楽しみですね。(羊)