二宮健監督『とんかつDJアゲ太郎』(2020) | 映画遁世日記

二宮健監督『とんかつDJアゲ太郎』(2020)

[ほぼワザと改行ありません]二宮健って監督は観念的で幻想的な映像美を得意とする映画監督であり、そういえば聞こえは良いが、ヘタするとアングラな立ち位置で終わってしまうのではないかという危惧もあったのだけれど、最新作がメジャー映画『とんかつDJアゲ太郎』だということを知り、どんな化学反応が起こるのかとワクワクした。しかし、コロナ禍にはじまり本作の公開には様々な困難が立ちはだかった。ある意味「持ってるな、二宮監督」とも云えるが、実際はシリアスに辛い気持ちであると思う。何より、フラットな気持ちで映画を観てもらえないかもしれない…というのは、いち映画監督としてちょっとしんどいのではないか。そんな折、お気軽な映画バカである僕は不思議とフラットな気持ちでフラっと公開初日の劇場で本作を鑑賞してきました。結果から書くと、あの二宮監督が、なんと王道で胸熱な青春エンタメムービーこさえたものだと心底感激した。冗談抜きで本当に王道中の王道映画だと思う。『ロッキー』好きか?『カリフォルニア・ドールズ』好きか?『男はつらいよ』好きか?『トラック野郎』好きか?どれかひとつでも当て嵌まるあなたには絶対に観て貰いたい。映画の起・承・転・結、とくにクライマックスへのアゲてゆく感じがホントにしっかりしてる。あー、やっぱりダメかー・・・いや、ちょっと待てよ?って感じも本当に素晴らしい。(ネタバレしない程度に書きますが)個人的にはクライマックスのステージ(っていうの?)で北村匠海と伊勢谷友介の目が合うシーンと、詳しくは書けませんが伊藤健太郎のところで涙腺が崩壊した。比喩ではなく泣いてしまった。胸熱とはこのことです!なかなかスゴイことだと思う。「とんかつ」で「DJ」で「アゲ太郎」ですよ?これまでの日本映画だったら、むちゃくちゃ寒い映画になっていたと思う。実際映画の核となる部分(設定というか)は馬鹿馬鹿しいことだらけである。それを破綻せずガッチリ魅せる二宮監督の手腕は恐るべきものがあると思う。うん、絶対に簡単ではないと思う。例えば現・日本を代表する是枝監督や黒沢監督(ザックリしていてすみません)にコレ撮ってくださいっていっても絶対に無理でしょう。また、僕はこの映画について書きたいことが山ほどあります。渋谷の街が、今元号は令和とかいうやつだけど本作では昭和かってくらいリアルに撮られている(意味不明ですみません)こと。ヒロインの山本舞香が本当にヒロインとしてキラキラしていること(クラブでアゲ太郎と出会うシーンはマジで『トラック野郎』みたいにキラキラ光る演出がくるかと思ったほど)。父ちゃんのブラザートムは頑固で優しい父ちゃん父ちゃんしていて、母ちゃんの片岡礼子はめちゃくちゃ濃そうな母ちゃんかと思いきやむちゃくちゃ普通のお母ちゃんしていて、妹の池間夏海はもう、これぞ妹、ザ・妹って感じで、本当に愛おしい家族であったこと。大好きな俳優さんである川瀬 陽太、彼こそクライマックスでニヤッとするカット入れろよ!アリだろ!と思ったこと。映画『ブレイクダンス』のパロディシーンのパロディ音楽がしょぼかったこと(ワザとか)。映画は王道とはいえ、二宮監督ならではのカットんだ(死語ですか)演出も盛りだくさんなこと、アゲ太郎が最初にクラブに足を踏み入れるときの足を主体で撮ったカットのドキドキワクワクが伝わる感じ。ほかにもいっぱいいっぱいある。最後に書きたいことは、ネット上ではネット民を中心に馬鹿にしがちな「作品に罪はない」論。いやほんと、「作品に罪はない」と思った。映画は、そのフィルムに、またはデータに焼き付けられたものがその映画にとっては全てなんじゃないかと思う。僕が、また皆さんが人生で一番好きな映画があったとして、実はその監督、出演者皆問題児でした…って言われても自分はバカ単純だと周りから言われようが人生で一番好きな映画は人生で一番好きな映画で変わらない、、、ぞ!!!!はたして、この映画の今の、世間から色眼鏡で見られているともいえる現状は、映画の中のアゲ太郎と同じではないか?「とんかつDJ?なにそれ」・・・しかし映画はそれで終わらない。この映画の世間からの受け止め方が、ポジティブな方向に向かってくれることを切に切に願う思いだ。[おわり]