宇宙の彼方へ漕ぎ出して、美しい惑星に進出していく人類と異星人の物語がアバターでしたが、
こちらの映画は、宇宙人が地球にやってくる というもの。
今までに、いくつものSF映画、SF小説で、こうした事態は想像されてきましたよね。
一体、彼らはどんな様子なのか?
どんな能力を持つのか?
地球の人類に、どのような行動を起こすのか?
いくらでも想像の膨らむ未知の設定なので、多種多様な宇宙人が思い描かれてきました。
だけど、大概の想像では、
宇宙人は人間を攻撃し、地球を乗っ取ろうとする
人間をさらって、サンプルとして自分の星に連れ帰る
そんな感じが主流ですよね。
ところが、そんな
宇宙人到来の定番イメージを見事に覆しているのが、この映画です。
まず、宇宙船がやってくるのが、南アフリカのヨハネスバーグ上空、という設定からして予想外。
でも、この監督の意図が、段々と明らかになってくるに連れて、
なぜこの場所なのか、なるほど~と合点がいきます。
そして、次に予想外なのが、この宇宙船からは一向に何のアクションもおきないのです。
責めてくるでもなし、
メッセージを送ってくるでもなし、
ただただ、そこに停泊しているだけ。
業を煮やした人類は、こちらから宇宙船内に攻め込むことに・・・・!
巨大な船内に恐る恐る足を踏み入れて、そこで見たのは、
またまた予想外なことに、大人数の栄養失調で体力衰退したエイリアンたち。
世界の代表者たちが話し合い、ヨハネスバーグに第9地区として、
エイリアンたちを受け入れる難民キャンプを設立し、食料やテントを供給。
それから20年。
エイリアンたちは、一向に自分たちの星に戻る気配もなく、そのまま第9地区に住み着いている。
最低限の暮らしを営む彼らの居住区は、衛生状態も治安も悪く、周辺の市民達からは不満の声があがる。
「なぜ、私たちの税金を使って、彼らを養わなくてはならないの?」
「地球のどこかの国の難民だというなら、まだ我慢も出来るけど、そもそもアイツらは、エイリアンだし」
難民キャンプの場所を、市街地からうんと離れた場所へと移す案が決定し
多国籍企業MNU がその任務を実行することになるのだが・・・・
はっきり言って、このエイリアンたちの外見も行動も、かわいらしくもなければ、かっこよくもありません。
映画の中では Prawn =エビ という総称を与えられているのも納得の姿で、
人間の目から見ると、気持ち悪くて、不細工。
この映画では、差別について、じっくりと考えさせられることになります。
ヨハネスバーグ市民の発言にあるように、
自分たちの一員ではないエイリアン という意識。
これが、全ての差別の根源にあるものですよね。
どこでその差の線引きをするかが違うだけで、同じ地球の人類だって差別意識は全てここから出てきます。
外国人だから
人種が違うから
宗教が違うから
障碍があるから
もっと極端に言えば、村が違うから、家族じゃないから。
どんなことだって、自分たちと違うという線を引いてしまうと、差別する側とされる側になってくるのです。
第9地区に対する人々の対処の仕方や、気持ちは、何も相手が宇宙からやってきたからではない。
世界の難民キャンプでは、まさにこれと似たり寄ったりの事実があるのだろうということに、気付きます。
救いようがないのは、このエイリアンたちが地球にやってきたのは、
何も望んできたわけではなく、自分たちの星から追いやられた・・・あるいは、そこから逃げ出した・・・・
まさに、宇宙規模での難民だったということです。
アパルトヘイトの問題と格闘してきた南アフリカを舞台にした意味は、ここにあるのです。
話が進むに連れて、始めは醜く思われたエイリアンたちの外見がだんだんと気にならなくなるのと反対に、
人間というものの醜悪な面がどんどん表に出てきます。
そして、
自分たちの星を追い出された醜いエイリアンと、それを受け入れたけれども差別する地球人
という映画の中の図式が、いつのまにか
地球から追い出された(エイリアンから観ると)醜い地球人と、それを受け入れ差別する宇宙人
という図式に頭の中で置き換えられてしまい、一層恐ろしさを感じてしまいます。
戦闘場面をはじめ、かなりキツイ画面描写とともに、そこで描かれる人類の姿に、
強く気持ちがかき乱され、考えさせられる映画です。
夢いっぱいのSFものだと思って、間違って子供と一緒に観たりしないように~
宇宙の彼方には、アバターで描かれたパンドラのような美しさを持つ惑星に、自然とのつながりを何よりも大切にするエイリアンが住んでいるのでしょうか。
はたまた、自分たちの仲間を惑星の外に追いやってしまうような、悲しい生物の住む星があるのでしょうか。
(記事中の画像はRotten Tomatoes よりお借りしています)
オフィシャルサイト: http://www.district9movie.com/
日本では4月に公開予定だそうです。