3周目裏ストレートにて。
愕然とする。

「まさか。何故、本番で。」
何も出来ないまま、初陣は、幕を閉じた。

無念さと、屈辱。
同時に、レースに対する情熱が
一気に加速するのを自分の内に発見した。

「いつか、絶対に優勝するのだ。」

以下、当日の記録。

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【予選】



天候は、曇。
暑くもなく、寒くもなく。
大変過ごしやすい気候に感謝する。

雨天になると、たちまち効かなくなるブレーキ類
(ブレンボ2ポッド&鋳鉄ロータ)、
猛暑になると、不意に襲ってくる、パーコレーション。
これらを憂慮する要素が、少しでも減ってくれるのがありがたい。

暖機運転もそこそこに、コースインする。
此処で無理をして、いきなりレースを不意にするのは本末転倒なので
様子を見つつ、徐々にペースを上げる。

何台か抜かれ、何台か抜き、コースに慣れてきたところで、
いきなり予選終了のチェッカーフラッグ。
短い...。
実力の6割程度を発揮しただけで、あっという間に終わってしまった。

結果。
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1分18秒507
MAX15クラス・11番手
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丁度、真ん中あたりの成績となった。

今から振り返ってみるに、少々冷静すぎたかもしれない。
初めてのレースということもあり、予選全体の流れを観察しながら
走っていた為、どちらかといえば慣熟走行の内容だった。
もっと「タイムアタック」を自分に言い聞かせた方が良かったと思う。

なぜなら、この後の決勝で、スターティンググリッドの位置が
いかに重要であるか、思い知らされたからである。

「予選で、できるだけ前のグリッドを確保しなければならない。」
これが、第一の教訓。

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【決勝】



思っていたよりも、緊張することはなかった。
むしろ、早く走りたい、と他のレースを見ながら、期待で胸が一杯になった。
一方で、少々冷静すぎる自分が、そこにいるのも事実だった。
初めての、レースを最後まで観察するような節があり、今ひとつ、
「アタックする」「スイッチを入れる」要素が欠けていたように、回想する。

「スプリント・レースは、一瞬ですべてが決まる。」
これも、今後、心がけておくべき教訓だろう。

スタート。

今回、唯一、ベストの走りが出来た部分。
シルヴァバードのマキノ氏に教わっていた、「効率の良いスタート方法」が
上手く実践できたため、後輪出力60馬力のF750村山SPでも、
周辺のハイパワーマシンに依存なく、1コーナーに飛び込むことが出来た。

参照画像(アニメーション)


とは言え、さらに気合を入れてスタートダッシュをかけ、
上位に食い込むイキオイが必要だった、とも回想する。
それと言うのも、私のペースよりも若干遅いマシンが、
前に連なることになったからである。

無事にスタートを切り、コントロールラインに戻ってきた時点で
私の前に抜くべき5台のマシンを確認する。
タイムとしては、どれも追い抜くことが出来そうなマシンばかりだったが
此処で初めて、レースの難しさを発見する。

簡単にクリアできないのだ。

私のマシンは、パワーがなく、それでいて車重がかなりあるので
立ち上がり加速は望めず、コーナリングスピードでカバーする必要がある。
抜くとすれば、コーナー飛び込みのイン刺ししかない。

ところが、全く容易ではないことに気がついた。

前の5台が、ラインを完全に封鎖しているのである。
得意の最終コーナー、いつもはここでタイム短縮を稼ぐところだが、
前者のために、満足にスピードを乗せることも出来ない。

そして、立ち上がり加速は、向こうが上手なので(皆、大排気量だ)
置いて行かれてしまう。
コーナーで追いつき、立ち上がりで離される。この繰り返し。
団子状態になったとき、エンジンパワーの不足は、圧倒的に不利であると
いろんなヒトに聞かされてきたが、こういうことか、と納得する。

それでもなんとか2ヘアピン飛び込みで前を走る900SSのインを刺し、
裏ストレートでさらに前に出る! と気合を入れた瞬間...愕然とした。

パーコレーションである。

「まさか。」
急にエンジンが吹けなくなる。
この症状は痛いほど知っている。
まず、間違いなく熱害による燃料系トラブルである。
そして、症状解決は、エンジンがクールダウンするまで期待できない。

「何故、こんな時に。」

既に、マシンは息継ぎをして、5000回転以上が使いモノにならない。
そしてそれは、常用回転域の死滅を意味した。
呆然としながら、グランドスタンドに戻ってくる。

先ほど抜いた900SSに抜きかえされ、視界から遠ざかるのを確認する。
前に出る気力とは裏腹に、クリアできるはずの5台が、ますます遠ざかる。

「何かの冗談であってくれ」

そう願ったが、アクセルを通じて伝わってくる感触は、
非情なまでに、現実を、的確に、伝えてくる。
全く加速しない。

後続の5台にも、まとめて抜かれる。
黄色のノートン・コマンドにも抜かれる。
コーナリングで簡単に追いつくが、立ち上がりは、もはや虫の息。
無情にも、徐々に、離される。

「リタイヤしようか」と思いつく。

裏ストレート。
ピットインしようかと思った瞬間、一台が猛然と追い抜いていく。
ラップされたのだ。
たかだか7周のレースで1ラップされるとは。

ピットインするのを忘れ、最終コーナーを立ち上がると、
不意にレース終了のサインが目に飛び込んできた。

やめてくれ。
そんなチェッカーフラッグは、いらない。

何も出来ないまま、終わった。
敗者は、ピットでマシンと向き合う。
いつまでも、向き合う。



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熱害、そして、パワー不足。
原因はハッキリしている。対処すればいいだけの話。
熱の放出を遮っているフルカウル、シート下カウルを外す。
熱がこもる、タンク内のウェーバーを廃止し、
ショートマニホールドで、FCRに換装すればいい。

しかしながら、ここで、行き詰まる。

これらの対策を施せば、このマシンはF750村山SPではなくなる。
あの大柄なフルカウル、キャブレター穴が開いたビーター製タンク。
そのタンク穴から顔を出すウェーバーのファンネル。

これらが、村山スペシャルとしての、このマシンの顔である。
アイデンティティである。
これを改良によって失うことは、私には改悪に等しい。

外観のシルエットをオリジナルに保つこと。
タンク穴を持つこと。
そして、タンク穴からウェーバーが見えること。
私が、村山スペシャルで、レースに出るということは、
これらすべてのアイデンティティとともに走ることである。

しかしながら、このままでは、満足に走ることすら出来ない、
非情の事実を突きつけられる。

わかっている。
村山スペシャルがサーキット走行向きでないことは。
この状態では、いつまでも進歩しないことも。
そんなこと、実は、わかっている。

けど、走りたいんやないか。
あかんのか。
走るのは。

走りたいけど、走れない。
ジレンマとは、こういう状態を言うのか。

もしかしたら、F750村山SPに、無理をさせすぎたのかもしれんなァ。
確かに、サーキットでタイムアップを狙うマシンではないナ。
公道で、のんびりとウェーバーの咆哮を楽しみながら、
ロングツーリングする方がイイのかもしれん。

残念だけど、F750村山SPとして、出場するのは、
これが、最初で最後のチャレンジ、とすることに決めました。
はかない挑戦だったけど、レースを走るコイツは、
これまでの、どの瞬間よりも、素晴らしかった、と、思いたい。

おつかれさま、F750村山SP。
今度はのんびり、遠くまで、ツーリングしようやないか。

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【今後】



今後、レースはどうするの?

やります。
もちろんですがナ。

こんなに面白い競技、ビリビリ伝わる緊迫感。
チョッと他にありませんゼ。
レースを、好きなマシンで楽しむのは当然だけど、
どうせやるなら、しっかりアタマ取りたいッ。

というわけで、レーサー作ることにしました。
不要なものはすべて取り払って、徹底的に軽量化した車体に
大好きなパンタ750エンジンを使うのがメインテーマ。
大排気量のライバルに対して、不利なのは間違いないが、
そこをライダーのテクニックと気力でカバーする。

そこに、マシンとの対話の接点を見つける。

なんだか楽しいことになりそうじゃないですか。
DUCATI PASO750改レーサー。

目指すは、来年のMAX10優勝です。
やるど!

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Special thanks : SilverBird http://www.silverbird.net/
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