「―――ありがと、恭弥」



「・・・・いいよ、別に」



僕は溜息をついた。これで5回目。



放課後、いつものように校内を見廻りしていると、幼馴染の彼女が草食動物に絡まれてるのを目撃した。


その姿を見るなり、僕の何かがはじけ、いつの間にか彼らをボコボコにしていた。


彼女が地面にへなへなと座り込み、すすり泣いている姿をみて、僕はなにをすればいいのか分からず、立ち尽くしていた。


彼女は鼻をすすった。「ごめんね・・・馬鹿みたいって思ってるでしょ。こんなことで泣いちゃってさ」


私らしくないなぁ・・・と涙ながらに苦笑する彼女。


その姿があまりに痛々しくて・・・。


「―――――恭?」



どうしたの?と不思議そうに顔を覗き込む彼女に思わず胸がいっぱいになって、僕は手を伸ばし、彼女を抱きしめた。



「ちょ・・・なに、どうし・・」


「きみには分からないよ」


「・・・・へ?」


僕は体を離し、彼女の頬を掴んだ。「どんなに・・・僕がきみを傷つけた奴を・・・殺してやりたいか」


ギリッと倒れている奴らを睨む。「いっそうのこと・・・・本気で・・・」



「やめて!!」



「!!」



彼女の鋭い声に思わずびくっとする。


彼女はいつもの真っ直ぐな目で、僕を見つめていた。



「・・・私がいままでどんな気持ちだったか、分かる?」



ぎゅっと僕の手を掴む。「あなたに、誰も傷つけてほしくなかった。誰もよ。あなたが強いってことは、皆知ってる。だけど、私なんかのために、人を傷つけてほしくないの」


その言葉を聞き、僕はぐっと押し黙る。


彼女は、本当に知らないのだ。


僕がどんな気持ちで、どんな思いを抱いて、目の前にいるこの小さな少女を見つめているのか。


僕はあからさまな溜息をついて、彼女の手を振り払い、立ち上がった。


「―――きみこそ、僕がいままでどんな気持ちだったのか、分かるのかい?」


「え」


「きみを、きみだけを抱くことに夢を抱き、きみを愛することで、僕は強くなった。でも君は、そんな僕を認めようとしないんだね」


「恭―――」



「お別れだよ」


僕は彼女に背を向けた。「誰よりも、」


そう、誰よりも。


「きみを愛していた」