昨夜、午前2時ごろ都内の精神病院から患者が逃亡した。

患者の名前は著名な両親の希望により公表されていない。

患者は見回りをしていた看護師をナイフで脅し、IDを奪った後、素手で殴って気絶させ逃亡した模様。

なお患者はレベル6の厳重管理されていたが、ストレッチャーの鍵を持っていたと思われる。

彼女の病室の壁には、「So do I」と赤いマジックで書かれていた。

警察は、彼女の保護と鍵を渡した人物解明に重点をおいて、捜査を進めるようである。
黒子の携帯が震えた。

画面を見て、驚いたように目を見開いた。

火神に視線を向ける。

「…アリスが、捕まりました」







アリスがストレッチャーにくくりつけられるのを、赤司は見守った。

アリスはまだ信じられないような顔で赤司を見つめている。だが口輪を嵌められていて、声を出すことができない。

「…本当に、これでいいのか?」

気がつくと緑間が隣にいて、アリスを見つめていた。

「…それが、彼女のためだ」赤司はぽつりと呟いた。

と、その時、一人の看護師が身体に触ろうとしたので彼女が激しく暴れた。

昔から、見ず知らずの他人に触られるのは大嫌いなのだ。

反射的に赤司は彼女のそばに駆け寄った。

制しする連中を無視し、彼女の手に触れる。

優しく手を撫でる赤司をアリスは憎しみのこもった目で睨みつけた。

「…すまない」

アリスだけに聞こえるように囁く。

彼女は暴れ続ける。もし縛り付けられていなかったら赤司に飛びかかっていただろう。

だが赤司は躊躇うことなく彼女の耳元に唇を近づけた。

「……あの日のことを覚えてるか?」

彼女の動きが止まる。驚いた表情。

首を回して赤司を見上げる。

「僕はこういうつもりだった」

それは、死んでも言わないだろうと思っていた言葉。「君を殺したいほど愛してる」

彼女は目を大きく見開く。

「これは」唖然とする彼女の手に、赤司はあるものを押し付けた。「僕ができる、最善のことだ」

彼女の額にキスをして、赤司はその場を離れた。

「何を渡したんだ?」

緑間が尋ねた。

赤司は彼女を見つめながら肩をすくめた。

「ちょっとしたプレゼントだ」