いつも読んでいただき有難うございます。今回から新シリーズを始めます。
今までとは少し趣の違った小説になるけど、基本はまだAKB小説のジャンルに踏みとどまります。時代は跳んでも彼女たちのキャラクターはしっかりと描いていきます。
幕末の京都に舞い降りたAKB48、そこで彼女たちは何を見るのか。
何の為に刀を持ち、誰の為に血を流すのか。
時空を超えた物語は浮いたものになりがちですけど、できるだけリアリティには気を付けながら現代と過去に交差するAKB48の青春群像劇を花の都、京都に写し絵の様に貼り付けていきたいと思います。
また小説指原莉乃、翼はいらない、parustoryの三本も更新は遅めになりますけど
並行して連載は続けていくので、そちらの方も宜しくお願いします。
~元治元年六月五日亥の刻
いつも通い慣れた道のはずだった。
春の盛りには満開の花びらが舞い落ちる、鴨川沿いの四条大橋までの一本道。
桜並木のなかを春を待つ桜香の淡い息吹を感じながら通り抜けていく。
見上げれば東山の低い稜線が目に飛び込んで来る。
脇を流れる底を打つような鴨川のせせらぎも何も変わらない。
ただ、川面に映る上弦の月が異常に明るいように思えた。。
「近藤さん、平助の腕から血が・・」
連れ添うように脇を駆ける山本彩の声が夜風に震えた。
「・・それぐらいの血・・ここでは何も珍しあらへん」
後ろに続く藤堂平助、首筋から袈裟掛けに切られた肩の傷。
そこから袖口を通して伸びる真っ赤な一筋の流線
「大丈夫や、気さえ張ってたら、痛みなんか飛んでいく」
その言葉に思わず刀のつかを力任せに握りしめる藤堂。力を入れることで筋肉が硬直し痛みも和らぎ血も止まる。平成の世からしたら,お笑い草の非科学的療法もここでは何故か速攻で効く。
―― 抗生物質もロキソニンもないんだよここでは。
医者なんて誰でもなれるんだし、クスリなんて気休め
風邪を引いたら、お酒をかっくらって寝る、
斬られたら傷口にそんなお酒を吹っかけるなんて、
ホント、うけるよ、シンプルでいいよ、こんな世界も。
けど笑ってられんのも、二、三か月が限界だわ、こんな生活
そうは思わない?近藤さん
さしこ・・・いや、芹沢鴨も傷だらけの腕や足を見せながらそう言って笑っていた。
「退け!退け!市中見回り組、まかり通~る!」
祇園祭の鐘の音
こんちきちんの音色に紛れてそんな声も掻き消される。
人混みのなか袴の裾を擦れ合うようにして四条通りを駆けていく。
慣れない草鞋に人の壁、さや姉の足も思うに任せては進まない。
けれど白地に藍染めの誠の文字、人垣は自然に割れていく。
山形模様の一陣に道を遮る者など、この京の都には誰もいない。
「間に合うのか。。。」
柳の向こう、三条小橋を渡ればそこはもう、池田屋。
切られることの恐怖、それが斬ることの快感に変わるのはそれほど時間はかからなかった。
だって私は泣く子も黙る、近藤勇。京で死ぬことはない無類の強者。
怖いものなんてあるはずがない。それよりも相手の恐怖が手に取るようにわかった。、
死の間際に出でて、生きる喜びを感じ、そこに己の誠を問う
一歩踏み込めばそこになにがあるのか
そんな命のやりとりが堪らなかった
暗闇の中、目の前にそびえたつ階段。頭上にうごめく人々はもう生けとし生けるものでは既にない。また斬ってしまう、そんな僅かに残る平成の世の性も、私のなかの訳の分からない滾る血が足を前へと踏み出させる。
「御上意!手向かいすれば切り捨てる!我は新選組局長、近藤勇なり!」
もう、うちらは、ホントにあの日には戻られへんのやろか 教えて・・さや姉。。
~序章」
京都の寺院は神社を含めると2000以上あるらしい。もちろん有名どころになるとその数は十分の一ぐらいにまで落ちるということやけど、それでも200程は誰もが知ってる神社仏閣ということになる。
最近ではパワースポットとか聖地と呼ばれるようになったお寺や神社が歴女達の間で大人気。嘘か誠か様々な言い伝えが都市伝説と交じり合い、寺社の都、京都をよりミステリアスにしていく。
なかでも京の都で繰り広げる一大幕末叙事詩
スーパーヒーロー坂本龍馬をはじめとする勤王の志士と新選組との幕末
群像劇は彼女たちの心を捕らえて離さない。
その新選組の屯所があった京都の壬生寺。知る人ぞ知る、いわゆる新選組フリークの聖地。
そんな壬生寺に私達AKB48は先月から週に数回の割合で撮影に訪れていた。
「横山さん!」
「どうしたん、美音?
「ちょっと、ちょっとこっち来て!」
「なに?
「だから、なんでもいいからはやく来てってば!」
「もうっ、まだメイクの途中やのにっ」
美音に腕を引っ張られるように塗りかけのグロスを手に持ったまま
控室から廊下へと出た。
控室になっている広間の前は枯山水の庭園、打ち水された石畳が朝の陽射しを浴びてきらきらと輝く。そのまわりを取り囲むように
苔むしたモスグリーンの小さな丘陵。木々の間に咲く一輪の梅の木に一瞬目を奪われる。
そんな私にもお構いなしにドンドン進む美音
手入れが行きと届いた黒光りするその廊下はずっと奥の方まで続いていて途中で渡り廊下になりその先のお堂にまで繋がっている。
「ちょっと、どこまで行くのん、美音?」
渡り廊下と小さなお堂の間には鍵のかかった格子状の扉があって当然もう前には進めない。格子に手をかけその先をじっと覗き込む美音。
「見て!ずっと奥の方!」
お堂は扉がなく、そのまま通り抜けられる構造になっている。
言うならばお堂の形をした門のようなもの。
当然こちらからは向こうの景色が見通せないといけないはず。
「見えない?見えないでしょ、向こう側が」
そう言われればそんな気がしないでもなかった。何か霞みがかかったような金魚鉢の中を覗いているような。
「それに両端の柱がゆがんでるし青白いひかりが突然出てくるの」
「うーん、古いお堂やし、歪んでても不思議やないし
確かにちらちら光は飛んでるけど、あれって蝋燭かなんかの照明ちゃうのん?」
「もーっ、横山さんったらー」
いいわよ、向こうに行ってみるから
そう言って鍵のかかった格子戸を力任せにがちゃがちゃし始める。
おそらくかなりの時間ここで一人でいたんだろう。もう美音のなかでは不思議現象でもなんでもなく、その光も歪みも確信に近いものだったのかもしれない。
「ダメやって美音!人呼んで来るから、じっとしとくんやで!」
そう言って再びお堂の方を見返したとき、確かに光るものは感じた、でも・・・
忍さん達を呼んできた頃にはもう柱の歪みも光と影も消えていた。
何々どうしたの?美音がお化け見たんだって、嘘、井戸から落ちたって聞いたよ美音。。
どこから何を聞き付けたのか、スタッフさんやマネージャーやメンバーたち、壬生寺のお坊さんまでが集まってきてちょっとした騒動になった。
説明しようとする美音も頼みのiphoneで撮った写真が何も写っていない。
結局映っていたのは淡く白い光の影がハレーションを起こしたように薄く画面の端っこになびいていただけ。
「大丈夫、美音?」
「だってっ、見たんだもん!」
茅野忍の言葉に彼女は目に涙をいっぱい溜めながらそんな言葉を呪文のように繰り返すしかなかった。
結局その時はそれで終わった。
「でも見たよね、横山さんも」
それから日中はずっと一言も喋らなかった美音が帰りの新幹線のなかでボソッとそう呟いた。
いい加減に、うん、と即答してもよかったけど、美音のそれからを思うと中途半端な返事は
やっぱりできなかった。
「ごめん、はっきり見たとは言われへん。明かるいとこから暗い所に目を移したとこやったし、
それに・・」
「それに、なに?」
「寝不足と疲労でストレスも続いてて、今は自分の見たもんに自信がもたれへん」
「ちょっと待って。それって見たことを認めってるってことよね」
「違う」
「違わない」
「違うんやて、美音。
こういう現象は胸にしまっておいた方がええ。
口に出していう時はそれ相応の証がないと偉いことになる
どうしても言いたいんならお茶らけでとめておくことや」
「・・・」
「本気で語れば語るほどそれはあんたのイメージを悪くしていく
売名行為? そう笑ってくれてるうちはええ。けどそれを本気で語り出すと周りは引く。
ほんとにそういう子やと思われてしまう。
ちいさな綻び、大事にせなあかんのが今の美音や。
そやから、もうやめよ、美音。あんたも見た、私も見た。
それでええやん、美音。」
それから彼女はもう何も言わなかった。まるで言葉を忘れたように、
何を聞いても何を問い掛けても。新幹線のなかも、帰りのバスのなかも。
「また会ったときに話聞くから、美音!」
別れぎわ、みんなの声出しにも振り返ることもなく立ち去ろうとする美音の背中に私はそう叫んだ。一歩二歩引きずるようにしてその足が止まる。振り返ることなく数十秒、私のバッグの中のiphoneが鳴る。 ――だって・・見たんだもん・・――
そのまま言葉を無くした小さな背中は私達から遠ざかった。
「明日になったら、いつものように何にも言わずに抱き着いて来るって」
「そうやんな」
朱里の言葉を自分に言い聞かせるように何度も頷いた。
「明日になれば・・」
その三日後、向井地美音は姿を消す。
折しも映画「幕末の桜の花びらたち」クランクアップ前日のこと。
花魁夕霧の衣装を身に纏い美音はPV撮影中突然いなくなる。
桜舞い散る京の壬生寺の石庭、新撰組隊士の御霊を奉ったお堂へと続く暗い廊下の片隅で愛用のピンクのiphone7だけが寂しげに光っていた。。
~to be continued
copyright©2015-2017littlemana