「嫌だってば!もう、辞める!
先生からもう来るなって言われたんだから、いーじゃん!」

「今までやってきたのに・・もったいないでしょ!」

「好きでやってたんじゃねーし!」

「いいから!一回でいいから行ってみなさい。
試しもせずに、嫌っていうのは許しません。
ただ逃げるのと同じでしょ。
潤くんのおかあさんが、いい先生だから、って教えてくれたんだから」




もうすぐ中学生になろうか、という時期。
俺はピアノの先生から首になった。
習ってるのに首っていうのも、おかしいか?

ちょっと入院している間に・・
先生が大学院で勉強することになったので、音大進学を考えてない生徒さんは他の先生へ移ってもらいたい、と言われた・・・らしい。
あくまでも先生と親との間の話。

その話を聞いた俺は・・・
今度こそ、ピアノやめられる!って思った。
どうも、運が悪くて。
先生が引っ越すから。教えるのを辞めるから。大学院にいくから。
なんて言って、次から次へと先生が変わった。
もう・・いいじゃん!
大して上達もしてないし!

なのに・・・俺に親がどや顔して言った。
新しい先生が見つかったわよ。
潤のママ・・余計なことしてくれた!


今までの先生はみんな中年の女の人だった。
今度は男の先生らしい。
それだけしか教えてもらえなかった。
おかあさんに習わされていたピアノには好きじゃなかった。
楽しいとも思えなかった。
今までやっていたのは・・ただ単に惰性。
練習していかない、レッスンもさぼりがち。
そんな俺を首にしたのは、当然だと、自分でも思う。