ボーッと魚を下ろしていた。
刃物を扱うときには、集中力が必要なのに。

頭を落とそうとしたときに・・出刃の刃先が指を掠めた。

ツーっと一筋の線が出来て・・次第に太くなって。
血の雫が大きくなっていく。

すぐに止まるだろう、と、傷口を水で流して、しばらく抑えていたけど・・
なかなか止まらない。


「翔くん!ちょっと、助けて。」

抑えている方の手まで、血で染まっていた。
もう、タオル一枚取ることも出来ない。

キッチンに来て、状況を見た翔くんは慌てた。
タオルを引き出しから取り出して、僕の手を包む。

「傷口、相当やっちゃったんでしょ?」

抑えた手をどかすと、赤い水玉が盛り上がっては流れていく。
よく見ようと目を近づけた翔くんは・・
傷口に口唇をつけて・・貪り・・啜った。

口唇を真っ赤に染めて。
止まらない血を、コクン、と飲み込んだ。

「智くん・・もったいないじゃない?
智くんの・・一部なんだから」

赤い口唇が裂けるように薄く横に開かれた。
微笑み・・でもなく、薄ら笑い・・でもなく。


僕の指をその口に運んで。
止まらない血をまた、飲んだ。




「こうするとね・・・・智くんは俺の一部になるんだよ?」