取材で訪れた、小さな町の小さな音楽ホール。
チェンバロなどの古楽器も使えるような構造になっている。
ピアノだけでなく、チェンバロもホールの備品となっていた。
俺はどうぞ、弾いてみてください、と言われ、チェンバロとピアノを弾かせてもらった。





ピアノで曲を奏でたら・・・
急に、哀しい・・切ない・・そんな胸が締め付けられる感じが・・・した。
俺が・・・智くんにベートーヴェンを聴かせた時の・・感じに似ている。

ただ、哀しいだけでなく。
ただ、切ないだけでなく。
愛しさのこもった・・・哀しさ、切なさ。



音は優しく、澄んでいて・・俺は。
このピアノの魅力に取り付かれた。

もう一回、弾きたい。
もう一回、聴きたい。
もう一回、この音に包まれたい。


もう一回、あの感情を感じたい。




ホールは練習用にも、予約が取れるようになっていた。
俺は、その日から、このホールに通うようになった。


もう一度。
智くんにあの曲を聴かせたい。
あの頃より、もっと、深くなった・・俺の想いを込めて。

この、ピアノの音で・・・