自分の名字に入っている樹、なのに、ゆっくり花を見ることはあまりない。
花が見られる名所は、昼間には人が多くて、行かれない。



だけど・・・
木之花咲耶姫が羽衣を振って、俺を誘っているような気がして。
逢いたくなって。






夜。
仕事の後に、立ち寄った。


神社の裏の小さい川沿いの櫻並木。
ライトアップこそ、されているものの、狭い道沿いで、座り込んで見られる場所もなく。
ただ、そこに立ち止まって、観ることができるだけ。




櫻の樹の下には、屍体が埋まっている。



こんな一節を思い出させるくらい、並木道に居並ぶ櫻の中に・・・
一本だけ。
一際、見事な樹があった。



その樹から・・・

木之花咲耶姫が、俺を振り返って、微笑んでいた。