薄く白いカーテンがかかった窓から外を眺める。
外は嵐。

外には、出られない。



男がオレをここに連れてきた。

部屋の入口は施錠されて。
どこにもいけない。


・・・そんなこと、しなくても・・オレには行く場所なんて・・もう・・ない。
彼がオレの前からいなくなってしまった、その瞬間に。

この地上に、オレの場所は・・必要なくなった。

ただ・・この残った肉体が・・ここに存在しているだけ・・



誰かが、ここにいろ、と言ったら、そこにいて。
誰かが、これを食べろ、と言ったら、それを食べ。

今のオレはマリオネットのよう。
操る糸がなければ、力なく、そこに・・・あるだけ。



今夜も男がこの部屋にやってきた。

「智くん。まだ・・・忘れられないの・・?」

忘れる?
彼は忘れることができるような存在じゃない。



彼の魂がオレの元から去った時。
オレの魂も彼に連れ去られていった。

今のオレは抜け殻。
何も感じることはなく。
何を想うことはなく。
希望も夢も未来も過去も・・・ない。

すべて、彼と共に・・・

なくなった・・・



男は・・・また、オレを見て・・・
哀しそうな顔をする。

「俺のことも、見てくれよ。今、智くんのそばにいるのは・・俺なんだよ」


弔いの鐘が鳴る。
彼のことを想うと・・鳴り響く音。
その音は、誰にも聴こえない。
ただ、彼を想う、オレにだけ、鳴り響く・・・音。




男はオレをベッドに連れて行って・・・
「智くん・・・・愛してるんだ。俺のこと・・見て・・」


抜け殻を愛おしそうに、抱きしめる。
男は愛を囁いて、愛を注ごうとする。

「好きにすればいい。これは抜け殻だから、誰に何をされても・・構わないよ」

抜け殻の体だけは反応しても・・
声ひとつあげないオレを・・哀しそうに、切なそうに、見て。






彼を探して・・・遠くを・・見る。
どれだけ探したって・・もう・・・見つかるわけはないのに・・・
彼の声を探して・・・耳を・・澄ます。
どれだけ探したって・・もう・・聴こえるはずはないのに・・・


彼の歌を聴きたくて・・・オレへの・・彼の歌・・・



外の嵐は決して・・止むことはなく・・
そして、また・・弔いの鐘が鳴り響く。



(O)