オーバーラップ 19 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして


オーバーラップ 1から読む

「私ってどうもやり過ぎちゃうみたい。好きだといろいろしてあげたくなっちゃう。でもそれはお互いのために良くないのかなって」
佐々木は怪訝な顔をした。
「上手く言えないんだけど、毎日を一緒に過ごしているととっても楽しいんだけど、段々当たり前になって来ちゃって相手への感謝の気持ちとか、思いやりみたいなものが薄れて来ちゃうような気がするのよ。お互いに甘え過ぎるって言うのかな…」
「それは何となく分るかな」
前菜が運ばれて来た。微妙な話題だけにウエイターの前で何となく口籠ってしまう。
「わがままもどんどん出て来るし空気みたいな存在になって、いつの間にか相手を所有するような感じになっていってしまって」
「でもそれはある意味当たり前なんじゃないの?」
「そうかも知れないけれど、私は自分の予定を勝手に決められたりしたくないのよ」
「うん」
「自分が行くんだから当然行くでしょうみたいな決め付けされちゃうと。しかも日程の相談もなかったし」
佐々木は面白そうに笑った。
「やっぱり旅行の件でシコっているんだ」
「別に…旅行以外でもそうなのよ。結婚するともっともっとそういう面が出て来るでしょう。」
「でも子供は欲しいと」
私はそれに答えずに前菜を急いで平らげた。佐々木の顔を見ると私の顔を面白そうにずっと観ている。
「自分でも矛盾しているのは分かっているの。ずっと一緒にいたいけれどなれ合いは嫌。結婚したくないけど子供は欲しい。むちゃくちゃだわ。でもそう思ってしまうのよ。どこかで折り合いを付けないといけないんだけれど」
佐々木は相変わらず黙って私の顔を見ている。
「佐々木さんはどうなの?なんで結婚しないの?」
「なんでだろう。まだふらふらしていたいのかな。ホントに彼女で良いのか考えているんだ」
「どれくらい付き合っているの」
「4年かな」
「ちょっとそれ彼女に酷じゃない?」
「あーそうかなやっぱり。こないだ親に挨拶に来てとか言われてまずいな-って。僕プロポーズなんてしていないんだぜ」
「その年で、そんなに付き合っているってこと自体がもう同じことだと思うよ」
「趣味もそんなにあわないし、君との方が、よっぽど話があうよ」
ドキッとした。店に入ったとたんそんな予感がしていたけれど、言葉に出されるとやはり来たかと思ってしまう。
「でも、私もうそんなに映画は見ないし、ブログのやり取りも面白いと思うけれど…」
「映画以外の話だってしているじゃない」
「そうだけど」
「きみはどうなの?彼氏とどんな話をしているの?」
「確かに話題はすれ違うこともあるけれど、でもそれなりに楽しいわよ」
「でもそれなりなんだろ」
答えられないでいるうちに次の皿が運ばれて来た。


オーバーラップ 20へ