(共同通信 日刊「コリア・ファイル」 )

 

日本の衣料品メーカーの委託で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国営工場が加工し、日本の大手量販店やスーパー向けに輸出する紳士服ビジネスが急成長を遂げている。

高い技術と低コストが背景にあり、中には年商が6年前の2倍以上に増えた日本企業も。朝鮮半島の緊張緩和が加速する中、「新たな外貨の稼ぎ頭」(メーカー関係者)として注目を集める“メード・イン・北朝鮮”の現場を追った。

▽賃金は月8000?1万円

「スーツは月間2万着、スラックスも1万7000着。約7割を量販店、残りをスーパーなど向けにすべて日本へ出荷しています」。

平壌市内の国営事業所「愛国牡丹被服工場」。昨年11月、視察に訪れた福岡県議会日朝友好訪問団(北原守事務局長)に、技師長が説明に当たった。

この工場の製造ラインはスーツ4本とスラックスが3本。日本製のミシン、プレス機など500台余りが設置され、国営の職業訓練施設などで技術教育を受けた若い女性や、退役軍人ら約1100人が作業に当たる。壁には「革命も建設も生活も我々の手で」と書かれたポスターも。

布地をはじめ、糸やボタン、型枠などすべての資材は、岐阜県内の衣料品メーカーが月2回ずつ、大阪港から発送。北朝鮮で最終製品に仕上げ、日本向けに輸出している。

「技術は非常に高く、納期を守る信頼性を感じた」と北原事務局長。ある大手スーパーの関係者も「仕事が丁寧。高級な裏地の仕立てもこなせる」と品質に太鼓判を押す。

従業員の賃金は生産計画の達成状況とキャリア、勤続年数などを加味した国家基準で決まる。日本円に換算すると8000円から1万円。アパレル工場がひしめく東南アジア諸国などと比べても「格安」だ。

▽タグ表示は「DPR」

一方、年の瀬の岐阜県内のメーカーの倉庫には、初売りセールを前に、折り畳まれたスーツなどをギッシリ詰め込んだ段ボール箱が山積みの状態に。

同社は、北朝鮮の7つの国営事業所と提携。月間約3万8000着のスーツと1万着のジャケット、ワンピースなど3000着前後の婦人服を市場に送り出す。年間のスーツ取り扱い量は約40万着に上る。

北朝鮮から輸入する段階で原価7000~8000円のスーツは、同社のプレス工場で箱詰めによるシワなどを伸ばす作業を行い、主に1万9800~2万9800円の価格帯で量販店やスーパーの店頭に並ぶ。

製造地を示す内ポケットのタグ表示は、大半が朝鮮民主主義人民共和国の英語名を略した「DPR of KOREA」。

南北の雪解けムードを反映してか、「以前と比べ北朝鮮製品への消費者の抵抗がなくなった」と同社関係者。一部大手スーパー向けの製品には、漢字の表示も見られる。

▽対日輸出は年100万着

業界関係者によると、委託加工の形で北朝鮮に参入している企業は東京と大阪、岐阜の計5社。「1年間の対日輸出量は全体で100万着近い」との声も。

都内に本社を置く大手スーパーでは、本年度の販売量が前年より5割も増え、紳士服全体のほぼ4分の1を占める。大手量販店でも取扱量は年々拡大し、アオキインターナショナル(横浜市)は本年度、3年前の約6倍に相当する年間3万着の販売を予定する。

また、韓国のアパレルメーカーでは、従来の委託加工に代わり、北朝鮮・開城に建設予定の工業団地に進出する計画も進んでいる。

岐阜のメーカーのある幹部は「今後は日本企業の狙い目となる。5年くらい先には経済環境が飛躍的に良くなるだろう」と、北朝鮮の紳士服ビジネスの拡大に自信をみせる。 


http://nippon-senmon.tripod.com/hantou/kitachousen/kita_tainichi.html