ありふれた読書日記 -2ページ目

舟を編む

今年に入って読んだ小説で今のところ一番面白かったのがこれ。



三浦しをんの『舟を編む』。文庫化を心待ちにしていた作品だ。

『舟を編む』は新しい辞書『大渡海』の編纂に携わる人々の物語。

玄武書房・辞書編集部の荒木は間もなく定年退職を迎える。荒木は退職前にどうしても自分の後継者を見つける必要があった。共に辞書作りに人生を捧げて来た松本先生を自分に代わって支える人物を。

荒木は営業部にいる馬締という男こそ辞書作りに向いていると見抜き、辞書編集部に引き抜いた。他人と交わるのが苦手で営業部では厄介者だった馬締であったが、辞書編集部でその言葉に対する情熱とセンスを発揮する。

この小説を読むまで辞書というものがどのように作られているのかなんて考えたこともなかったが、松本先生を中心に荒木、馬締、西岡、佐々木さん、岸辺ら辞書編集部の面々が『大渡海』出版に向けてひたむきな情熱を注ぐ姿に胸が熱くなった。最近涙もろくなったのか、読みながら目頭が熱くなることが何度かあった。

馬締がおんぼろ下宿住まいというのも私のツボだった。三浦しをん作品の『木暮荘物語』もそうだが、おんぼろアパートとか下宿とかそういうのが何だか好きなのだ。決して自分が住みたいわけではないのに。馬締が住む早雲荘の住人は馬締と大家のタケおばあさん、それに猫のトラさんだけ。

しかし、そこへタケおばあさんの孫娘で板前修業中の香具矢がやって来て、馬締が恋に落ちるという恋愛要素が盛り込まれているのも良いスパイスになっていた。「来てくれたのか」、「うん、来たよ」という、ただそれだけの会話にこんなにもキュンとするとは思わなかった。

ああ、そうそう、馬締が買いだめしている「ヌッポロ一番」というインスタントラーメンが無性に食べたくなった。じゃあ、サッポロ一番を食べればいいかと思ったけれど、よく考えたら私はサッポロ一番があまり好きじゃないんだった。


本を読み終えてすぐにhuluで映画『舟を編む』を観た。原作のある映画にありがちだが、この映画もやはりあちこち削ぎ落されて随分あっさりとした感じに仕上がっていた。でも、悪くはなかった。馬締役の松田龍平さん、西岡役のオダギリジョーさんの二人がよかった。麗美役に池脇千鶴さんというのはちょっと可愛すぎたけど、それもまあよかった。

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【買った本】『夜明けの睡魔』、『荊の城』

ちょっと前に買った本。



瀬戸川猛資の『夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波』(創元ライブラリ)とサラ・ウォーターズの『荊の城 上』、『荊の城 下』(創元推理文庫)。

それほど海外ミステリを読んでいるわけではないのだけれど、ミステリガイド的な本を読むのが好き。瀬戸川さんのミステリ評は以前『ミステリ・ベスト201』で読んだことがあって(→過去記事「ミステリ・ベスト201」)、いつか『夜明けの睡魔』も読んでみたいと思っていた。

サラ・ウォーターズの『荊の城』は文庫の帯にもあるように2004年度のこのミス1位作品。話題になった当時はあまり興味をひかれなかったのだけど、ミステリーでなおかつ百合的要素があるということを知って読んでみようかと思い購入。私がアマゾンで買った時は上巻の在庫が2~3冊だったけれど今は新品での取扱いはないらしい。他のネット書店でも上巻は絶版と表示されている。上下巻の本で片方だけ絶版というのはどうなのだろうか。上巻だけ買って下巻は買わない人がたくさんいたということなのか。

買った本や本の感想を書く順番が前後してしまっていて、まだ感想は書いていないけれど、どちらも既に読み終えている。『荊の城』は久しぶりに一気読みしてしまうほどの面白さだった。


夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波 (創元ライブラリ)夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波 (創元ライブラリ)
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ウエハースの椅子

今日は心地良い暖かさを通り越して何だか蒸し暑い一日だった。このままあっという間に桜が散って梅雨になってしまいそう。



江國香織の『ウエハースの椅子』を読んだ。

主人公の“私”は三十八歳の画家で、独身、一人暮らしの女性。両親は既に亡くなっており、家族は妹が一人。“私”には優しい恋人がいる。そして、その恋人には妻子がいる。

江國さんが描く不倫の恋はどうも苦手だ。不倫の何が悪いのか、愛し合っていればそんなものは関係ないという開き直りとも思える悪びれなさがいまいち理解できないのだ。

だけど『ウエハースの椅子』は面白かった。“私”の元を恋人が訪れ、食事をして愛し合って、二人で散歩をする。“私”の妹もやって来る。妹と妹の恋人が一緒だったり、妹の恋人が一人でやって来たり…。“私”の恋愛は前進するでもなく、終わるわけでもない。しかし、恋人の不在に表面的には平気を装っていた“私”がゆっくり静かに壊れ始める。

淡々としたストーリーでまるで“私”の日記をこっそり読んでいるような気分になったが、この静けさは嫌いじゃない。それから、江國さんの文章が好きだと改めて思った。

サンドイッチについて書かれた文を読んで、思わず真似をして作ってしまった。

サンドイッチをつくるとき、私はバターをとてもたくさんつける。厚切りのハムをはさみ、辛子を薄くぬる。レタスははさまない。パンが濡れてしまうからだ。


いつもはペラッペラのロースハムを買うのだけど、これを読んで厚切りのハムを買った。作ったサンドイッチは美味しかった。

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ムーミン谷の冬



トーベ・ヤンソンの『ムーミン谷の冬』を読んだ。

ムーミンシリーズを読むのは2作目。最初に読んだのは『ムーミン谷の彗星』だったか、それとも『たのしいムーミン一家』だったか。なぜ覚えていないのかというと、あまり面白くなくて途中で読むのをやめ、もう読み返すこともないだろうと思って手放してしまったから。

しかし、昨年トーベ・ヤンソン生誕100周年ということで様々な雑誌でムーミン特集が組まれたり、講談社文庫のカバーが限定スペシャルカバーになるなどしているのを見て、もう一度ムーミンを読んでみようかなと思ったのです。

結果から言うと、『ムーミン谷の冬』は面白かった。今度はちゃんと最後まで読めた。

『ムーミン谷の冬』には私の好きなキャラクター(アニメで観て好きになった)スナフキンは登場しない。スナフキンは南へ旅に出ているから。さらにムーミンパパやムーミンママ、スノークのおじょうさんもいるにはいるけれど冬眠している。

なぜだかわからないけど冬眠中に目が覚めてしまったムーミンが初めての冬を体験するのです。

おしゃまさんやちびのミイ、ヘムレンさんらと冬を過ごすムーミン。最初はとにかく春の訪れを待ち望んでいたムーミンでしたが、様々な経験を経て春に対する考えが変わります。


彼は考えていたのです───春というものは、よそよそしい、いじのわるい世界から、自分をすくいだしてくれるものだと。ところが、いまそこにきているのは、彼が自分で手にいれて、自分のものにしたあたらしい経験の、ごく自然なつづきだったではありませんか。



今度は『ムーミン谷の十一月』を読んでみたい。

堀江敏幸の『おぱらばん』の「のぼりとスナフキン」にこんな記述がある。

そういうスナフキンの思想をいちばんみごとに伝えているのは『ムーミン谷の十一月』で、これがシリーズの最高傑作だと私が疑わない理由もそこにある。


じゃあ、最初から『ムーミン谷の十一月』を読めばいいのにと思われるかもしれないけれど、好きな作家である堀江さんがシリーズ最高傑作という『ムーミン谷の十一月』は後に取っておきたかったのです。シリーズ全部を読もうと思っているわけではないので。

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晩秋

美味しかったからと言って地域限定でもなくどこでも売っているお菓子をわざわざ送ってくれる母。私が一人暮らしをしていた大学生の頃と変わらない。ありがたいなぁ。ちなみに送ってくれたお菓子というのは、ブルボンのアーモンドキャラメルポップコーン。本当に美味しかったから今度は自分で買おう。



ロバート・B・パーカーの『晩秋』を読んだ。

『初秋』を読んだ後、いつか読もうと思っていたけど気付けば4年半経っていた。

『初秋』で15歳の少年だったポールが『晩秋』では25歳の青年になって再登場。スペンサーとポールは行方がわからなくなったポールの母親パティを一緒に探すのだが、パティの身辺を調べるうちに彼女が彼女の恋人が起こしたトラブルに巻き込まれていることが明らかになっていく。

パティの行方を探すスペンサーとポールの前に立ちはだかるギャングのボス・ジョウとその息子ジェリィ。彼らもまたパティとその恋人の行方を追っていたのだ。


ギャングとの対決などハラハラさせられるが、私は『初秋』から続いていたスペンサーとポールの父と息子のような関係にグッときた。

ポールをいい学校へ行かせてやったし私は悪い母親ではない、ある程度いいことをしたと言うパティに対して言い放ったポールの一言が、スペンサーとの10年間の関係を表していた。


「ぼくが得たものは、ママ」ポールが言った、「自分自身なんだ。それも、あんたから得たんじゃない。彼から得たんだ」私の方へ首を倒した。



『晩秋』を読んだら今度は『初秋』を読み返したくなった。いつか読もう。いつになるかわからないけど。


『晩秋』にはスペンサーの恋人スーザンの元夫の犬パールが登場するのだが、このパールがなかなか魅力的で犬好きとしてはその点でも楽しめた。

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