ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 | 羊飼いの戯言

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作品の感想や雑感をつらつらと述べたblog

 公開初日の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を鑑賞してきました。仕事が終わったその足で会議に向かい、終了後に池袋のシネマサンシャイン で二回連続回し。同会場はネットで前売りで座席指定券を安く買えるので便利なのです。


 羊飼いの戯言-シネマサンシャイン  羊飼いの戯言-パンフレット


 さて、感想ですが一言で言うと「むちゃむちゃ面白かった」。

 非常に濃密な構成ながら、キャラの立ち位置や心情が理解しやすいエンターテインメント作品に仕立て上げられていてあっという間の二時間でした。
 スタッフロールが流れて衝撃のエピローグがあって、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(Q:Quickeningとされていますが、もちろん序・破・急を文字っているのは明白)の予告編が流れて上映終了となると同時に、自然発生的に客席から拍手が沸き起こったのも、会場の気分を代弁しているのではないかと思います。逆に言うと『Air/まごころを君に』がかの有名な台詞『…気持ち悪い』で幕を閉じた時の客席の何とも言えずあっけにとられたような空気も未だに覚えているくらいに衝撃的でしたが、あの時とは違って実に肯定的な意味合いで出色の出来でした。

 というわけで思いついた感想を書き殴っていきますが、当然のようにネタばれしまくっているので未視聴の人は読まないでください。




 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は元々アスカが登場する前後の第八話から第拾九話『男の戦い』までをまとめた話ですが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の時から指摘されてきたように、綾波レイの立ち位置が母親ユイの代わりではなく、クラスメートでありパイロット仲間である一人の女の子を与えられていることが大きな変更点の一つです。社会科見学・お弁当の下りが伏線となって、「手料理をふるまって碇君と碇司令に仲良くなって欲しい」、「碇君といるとぽかぽかする、碇君にもぽかぽかして欲しい」という心持ちは、不器用だけど恋する女の子そのもの。戦いの中でお互いに憎からず思う気持ちが育まれていっただけに、その女の子を第十使徒に捕食されたシンジが「綾波を返せ!」と自らの願いをストレートに口に出して立ち向かっていく構図が成立するわけですし、「己の願いを実現するためにヱヴァに乗る」という動機の説明にもつながって非常に分かり易くなりました。


 一方で、綾波をヒロインの位置に持っていくとどうしてもアスカが噛ませ犬になってしまうわけで、文字通り残酷なまでにその役回りを演じさせられていて途中から見ていて可哀想な程。
 それが一番形になっているのは参号機のテストパイロットをアスカに勤めさせた点。参号機の処理を巡る下りはシンジが父親への反発心を強め自分がヱヴァに乗る意義を見つめ直す契機となる点で極めて重要なエピソードになりますが、アスカの命が危険にさらされていくのに初号機のエントリープラグ内という至近距離にいながら全く手出しが出来なかった絶望感が、碇司令への怒りとなって爆発するカットは感情移入できました。TV版では参号機のエントリープラグ内にいるのが大切な友人であるトウジだと知らないまま戦闘に突入したシンジが戦闘終了後に自分の手で友人の命を殺めかけたと知って絶望するわけですが、新劇場版の方では参号機のエントリープラグ内にいるのがアスカだと知っている分だけより一層絶望感が増幅されており見ていて息苦しいばかりでした。


 この悲惨さを強調するためのギミックとなったのがヱヴァンゲリヲンの持つ獣性。使徒に乗っ取られた参号機をダミープラグ稼働時の初号機が撃破する下りはことさらに獣性が強調される演出になっていますし、内部にテストパイロットがいるエントリープラグを破壊する際も、TV放映時は手で折り潰すのに対して新劇場版では口でくわえて噛み潰すというより野性的な仕草に変更になっており、凶暴さ・獣性が印象付けられました。

 そのように獣性の持つ強さが強調される一方で、限界が露呈されたのがマリの操縦する二号機が「人であることを捨てて裏モードThe Beastを発動するも第十使徒に撃破された」カット。獣の姿をむき出しにして単騎でかかるも第十使徒の前では無力でしたが、「人の願いを叶えんがために神に近い存在となって躍動する初号機」が第十使徒を打ち破った点と合わせると、ヱヴァの持つ神性獣性の両者の差異がより際立つと思われます。


 というわけで途中話が脱線しましたが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』はシンジとレイのラヴストーリーである、というのが現時点での率直な感想です。まぁまだ何回も見に行くつもりなので、変更されるかもしれませんが。


 あとは補遺的にいくつか。
 アスカが封印処理を施される弐号機を見て「私の弐号機」と愚痴るカットがありますが、後にやすやすとマリの操縦を許していますし、TV版の時のように機体の中にアスカの母親の魂が封入されていて他のパイロットを受け付けないという設定ではなく、むしろ零号機や初号機とは異なり実戦配備型として誰でもアクセス可能な量産型仕様の建造方法になっているのではないかな、と推測。

 戦闘シーンはどれも緊迫感に溢れていましたが、サハクイエル戦での初号機の超音速ダッシュや要塞都市の構造を用いた軌道変更のカットは格好良かったです。なお「今日の日はさようなら」や「翼をください」を劇中挿入歌に用いた演出は賛否両論がありそうですが、スローテンポの音楽が入ったからこそアスカの入ったエントリープラグが破砕される悲惨さが強調される効果はありますね。

 参号機のテストパイロットに関しては、TV版だとトウジのアイスが当たりだったことがテストパイロット選出の伏線になっていましたが、劇場版だとアイスが外れ→何事もなく妹の退院を迎える流れになっており、ちょっとホッとしてしまいました。

 参号機搭乗前に秘匿回線でアスカがミサトと会話を交わすシーンがあり待機室代わりのロープウェイの中にASUKAとかかれたパペットを含む私物が持ち込まれていたのですが、事故後に私物がまとめて家に送り返されてきた際に透明な段ボールの箱に「惣流」と書いてあったか、「式波」と書いてあったか…。漠とした違和感を感じたので次回は要check。
 セルフパロディーとして、温泉ペンギンの存在に驚いた全裸のシンジをミサトが諭すという場面がTV版ではありましたが、新劇場版では全裸のアスカをミサトが諭すという構造になっており、もちろんビール缶その他が絶妙な角度でマスキングを行っているという構図も踏襲されていました。
 更には加持さんに言い寄られたシンジが「アッー!」と叫ぶカットもありますが、これも完全にスタッフの遊び心。こういう硬軟織り交ぜた内容がよりエンターテインメント性を高めるのに一役買っていたように思います。